完全粉砕
前方から第四勢力が突進してくるのと同時にナラカ、翔摩も第四勢力に向かい走り出す。ナラカよりも速い翔摩がナラカを横切る。
「先に行くな翔摩!」
翔摩は前からくる第四勢力の突進をもろに食らう。
「グアぅーん⁉︎」
第四勢力の語尾が何が起きたのか理解が出来ず疑問符に変わる。ナラカも目の前に広がる現状を上手く咀嚼できず、目が点になる。
「力が強いって聞いてて少しは期待したのに。これじゃあ師匠のタックルの方がまだマシじゃねぇーか‼︎」
翔摩は突進してきた第四勢力を微動だにせず受け止めた。そして翔摩は両の腕で第四勢力の両肩を「トン」と押す。第四勢力は後ろへ翻る。第四勢力が後退したことにより約2メートル程のスペースが生まる。そして翔摩はその2メートルから助走をつけて、第四勢力にタックルを繰り出す。第四勢力はまるでボールに弾け飛ばされたボーリングピンのように後方に飛んでいった。吹き飛ばされた第四勢力は翔摩のタックルによりピクリとも動かなくなってしまった。ナラカと翔摩は廊下が開けたことを確認する。
「さぁ 行きましょうか、、、そういえば名前聞いてませんでした。」
普通は名前を聞いた時に同時に名前を尋ねるんだけれども。ナラカはこの脳筋に少し呆れた。
「閻堂寺ナラカ。3年2組。」
「名前かっこいいですね‼︎」
翔摩は目をキラキラさせながら話をする。
「名前なんてどうでもいいから、翔摩はこのまま体育館に行け」
「ナラカさんはこれからどうするんですか?」
「俺はこのまま上に上がって生存者がいないか確かめてくる」
翔摩は先ほどのキラキラした目から打って変わって不安な目の色に変わる。
「大丈夫だって心配するな。お前なら敵と遭遇してもすぐに殺されないだろう。」
「僕はナラカさんが心配なんです!」
こんな地獄みたいな惨状に他人の心配をすることがナラカには到底理解できなかった。人間は自分勝手で、口では上手く繕っても自分にメリットがあれば容易に他人を傷つける生物と認識してるからだ。
翔摩は不安な瞳がなおさら強くなり、何か言いたげな顔をしている。
「やっぱり心配なのでナラカさんについていきま、、、」
ナラカはありがたさ半分鬱陶しさ半分の言葉を途中で制止させる。
「俺の言うことに従え」
まるで否定も肯定もできない、いやもはや口を開くことすらも許容されない空気を放ち、それが翔摩の気管に酸素と一緒に入っていく。翔摩は泣きそうな目でナラカを見上げる。少し怖がせすぎたかなと反省をする。ナラカは翔摩に慈愛を込めた瞳で見つめる。
「いいかな早く行け」
「、、、わかりました。気を付けください」
翔摩はナラカに背を向け階段を下っていく。
「さて2階にはもう誰もいないな」
ちょうどこのタイミングで翔摩にタックルされてピクリとも動かなくなっていた第四勢力が立ち上がる。翔摩から受けたダメージは案の定完治されている。
「俺の踵落としで致命傷を与えられなかったのに
たかだか人間のタックルで死んだら笑い話になっていたよ。生きててくれてありがとうな(煽り)」
第四勢力はさっきと同じようにナラカ目掛けて突進してくる。
「面倒だな。ちょっとぐらいいいっか」
ナラカは翔摩に向けていた慈愛に満ちた瞳から殺意、、、いや書類が溜まり、脳死状態で黙々と作業するようなサラリーマンのような虚無の瞳に変わる。
「パリン!」
ナラカは左に規則的に取り付けられている窓ガラスの一つを拳で割る。
「これでいいっか」
ナラカは叩きっ割って舞い落ちていく窓ガラスから1番鋭利で、持ちやすいガラス片を取る。
その間に第四勢力がナラカに直近に迫る。
ナラカはガラス片を掴み、第四勢力の両腕を切り落とす。
「ギャィヤャー!」
第四勢力は腕を切断され狼狽える。
「トン...トン... 」
狼狽える第四勢力の隣をナラカはまるでこの惨劇がなかった頃の穏やかな歩調で歩き去る。
「クチャ‼︎」
ナラカは後ろを振り向かず第四勢力の頭が廊下に落ちる音と同時に第四勢力を屠ったガラス片を捨てる。
「パリン!」
ガラス片には血液や擦れ傷すらない完全な状態のまま役割を全うした。