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茶飯壊滅

ツヅミん先生(正式名称霞原鼓)が教室に入ってきて今日の予定を黒板に書き殴る。


「これから体育館に移動するから、貴重品以外は教室に置いておくように」


相変わらずの角ついたメガネを愛用し、今日が新学期初日のせいなのか、体をスーツに身に纏って、髪もワックスでガッチガッチにセンター分けに固めている。ツヅミんは教室の電気を消し、教室に誰もいないか確認し、鍵を閉め、生徒を整列させる。ナラカは黒板に書いていたスケジュールを脳内で浮かべる。これから体育館で1時間大人たちの無味無臭の話を聞いて、それから教室に戻り配布される教科書の確認をして帰宅する流れ。ナラカは整列をしようとしている傘倉流流為(かさくらるい)に声をかける。


「どうにも話を聞くの耐えれなそうにないからまたお願いできるか?」

俺はスマホを取って自分の頭らへんまで上げて合図をする。流為は何を言いたいのか分かったようで、苦笑する。


「わかったよ。今年度最初のお仕事お受け致しました笑」

まるで一流の執事のように手を腰のところでおり、礼をする。


「またお礼に購買でなんか奢ってやるから頼んだぞ。」


俺は列から抜け出し中庭に行くためにツヅミんの横を通り向かう。


「教科書配布までには戻ってこいよ。」


[わーてますよ。ツヅミんの話は直接聞くに値する話ですから。」


俺は3階から1階まで階段で降り、中庭に続く道を平坦と歩いて中庭に出る。この明星学園の形状は4校舎から成り、それらが正方形のような形を生み出している。今から行く中庭は4校舎が日光を遮っているため比較的に暗いが、その中心には東京タワーのような形の図書棟がある。俺は図書棟の扉を引く。中は1から6階まで本が天井を突き抜け隙間なく収納されている。平日はたくさんの生徒が押し寄せる1番人気な場所である。俺はエレベーターで7階を押す。6階より上は天文学部が観察の時に使っている空間である。7階は半径10メートルほどの円形で、円の中心にはさらに展望デッキに繋がるハシゴが掛けている。周りには天文学関連の本が本棚から入り切らず山積みされている。本棚と本棚の間に細長で年季の入ったソファに横になる。寝心地は柔らかさと硬さの間をとった感じで実に心地がいい。何事でも過剰ではなく中間がいいと思う。人間は何かを過剰に取ると精神の器が破壊されて狂ってしまう。薬の過剰摂取は体を蝕み、ストレスの過剰摂取はうつ病を引き起こし精神を蝕む。人間関係でも例外ではない。人に過剰に近づくと相手の嫌な一面が垣間見れたりする。最悪の場合人間不信や変なトラブルに巻き込まれる。その様な理由から俺は何事にも誰に対しても不偏不党の立場でいる。ポケットの中に入っているスマホから振動が伝わる。スマホを見ると案の定流為からの着信だった。ワイヤレスイヤホンを装着し、同時に着信をオンにする。携帯越しから校長が話している声がする。俺が何かしらの面倒な授業があるときは流為が携帯越しにここで本を読みながら先生を聞く。なぜその様なスマホのバッテリーがもったいないことをしているのかというと、話の将来性を大事にしているからだ。大抵の話は生産性のない内容で聞いてて無価値だと一般的には思う人もいるかもしれない。よく校長先生の話の時に大半の生徒が聞かず、寝ている。それは生徒がこの話が将来役立つ話ではないと無意識に思っているからだ。なぜ将来性がなく無必要な話だと思っているのか。将来その話が必要になるか不必要になるかなんてまだ俺たちにはわからない。俺たちの目には未来を見通す能力はない。結果からゆうと必要か不必要かなんてその時が来るまでわからない。ならば、どんなに無味乾燥な話でも、どんなに惨たらしい話でも聞く価値はあると思う。将来その話たちに命が宿り俺たちを助けてくるかもしれないから。だから、俺はこうやって体育館に行くのが怠くても携帯越しに話でも聞く様に心がけている。 


「それにしてもいつも通りつまらねぇ話だな」


体育館に行って話を聞くのがベストなのは言われなくてもわかる。しかし、俺はこんなつまらない話を聞くために体育館まで歩きたくはないから、今こうして話を聞いてる。結局これが一番の理由だ。俺は鞄から文庫分の35ページを開き、ワイヤレスイヤホンをはめ校長のやたら長い話を読書用BGMにして読み始める。


「これにより始業式を閉式する。1年生から2年、3年の順に担任の指示に従い戻りください」


100ページに迫ったところで始業式の終わりを告げる声が響き、生徒の退散の雑踏が聞こえる。100ページのところに書店のレジのそばにあった無料の栞を挟み本を閉じる。俺は本をソファの横に置き、天井を見上げ目を閉じる。


「少し遅れても罰は当たらないだろう」  


俺はアラーム設定もすらせず、夢の中に堕ちていった。

 


「きゃああああああああああ!」


「やめろ、来るな!来るなぁああああ‼︎」


「先生!この子息してません‼︎」


夢の中で人々の阿鼻叫喚の捩れる声が聞こえる。その声に懐かしさを覚える。以前だったら毎日この声を聞こえていたのに今は平和ボケした声しか聞こえてこなく俺の耳は腐りそうだ。


「( 戻ってきたのか俺は? 、、、いや待て先

生⁉︎)」


目を醒めると見慣れた天井が視界に映り夢を見ていたことに気づく。俺はソファーの上から上半身を起こし座る体勢になる。夢の中でも悪人の声を聞くとは職業病も呆れたものだ。しかしその声はとうに夢から覚めたはずなのに鼓膜を振動する。そこで俺は理解する。夢の声は幻聴では現実の声だと!。スマホを慌てて手元に手繰り寄せる。画面には流為の通話画面を示される。なぜ流為からの通話中にこんな声が聞こえるのか皆目理解できない。


「流為!流唯聞こえるか!」


返信はない代わりにどこからか誰かの悲鳴、泣き声、助けを求める声が聞こえる。俺はソファーから立ち上がり、渾身の力で地面を蹴り、走り出す。


「一体何が起きてやがる」


エレベーターの「下」ボタンを押すがワゴンは1階にあるらしく、階段を降りた方が速いと判断し、7階から1階まで下がっていく。螺旋状の階段を死に物狂いで駆け降りる。現在の時刻が11時半弱。寝たのが10時前だったことから最低でも1時間半は寝ている。その間にこんな事が起きるわけがない。何かの悪戯か。そんなことを自問自答していると1階までたどり着く。エレベーターは今ごろ7階に到着したらしい。引き裂けそうな足を踏み締め、出入り口の扉を両手で押す。少しずつ外の世界が見えてくる。

完全に扉を開け、外の世界の全体像を見渡す。

中庭に広がる芝生には本来見える緑がなく、代わりに人の赤い血液でところどころ支配されている。なぜ人の血液だとわかるかと言うと確認できるだけで5人の死体があるからだ。死体は制服の違いから男女半々だと思う。それ以外の要素から男女が判別はできない。顔の皮は剥がされ血肉が剥き出し、口からは赤黒い肉片が喉から溢れ出している。腹はまるで妊婦さんの様に膨れ上がる。赤黒い肉片を詰め込まれたのだろう。まるで餓鬼のような容貌している。世界が赤く染まったかの様な錯覚に陥る。

それほどまで、あまりにも残念すぎる現実だ。

天空を支配する火山灰の様な積乱雲が嘲け笑いながら拍手をしている様に雨が「パチパチパチパチ」と赤い芝生に降り注いだ。






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