第八夜
こんな夢を見た。
私は謎の美術館にいた。とある個展が開かれているらしい。
私の足は自然とそこへ歩いていった。私の意識とは裏腹に。別に構わないが。
個展の名称は分からなかった。ただ、ウルドと書かれていたように思える。ウルド。北欧神話において過去を司る女神の名だったと思う。それが展示名とどう関係しているのか。
私は幾つか展示されているのを見た。そこにあったのは十一点もの展示物が円を描くように配置されていた。
壁の絵。壊れた鏡。耳を塞いだ人の彫像。
私の印象は、酷いの一言だ。壁の絵は、硬く高く聳えていてコミュニケーションの遮断を表していそうだった。
壊れた鏡は、本質の歪みを表しているみたいに感じられる。
耳を塞いだ人の彫像は、聞く意思の無さを象徴しているのかもしれない。
展示物のテーマを見ると、「無理解」と書かれていた。確かに、と思う。
無理解は酷いものだ。心に苦痛を与えるだけなのだから。腹立ちを抱かざるを得ないな。
私の思いとは裏腹に、歩みは別の展示物へと進んでいく。
そこにあったのは三つの絵である。霧の絵と砂時計の絵と絡まった糸の絵だった。
私の印象は誤解なのではないかと思う。
霧の絵ははっきりしない状況を表しているのだろう。
砂時計の絵は埋もれていてひっくり返せない思いを表しているみたいに感じられる。
絡まった糸の絵は、互いの誤解を表しているように思える。
展示物のテーマを見ると、「誤解」の一言だった。やはりそうか。
私の思いとは裏腹に、歩みは次の展示物へと進んでいく。
そこにあったのは今にも壊れそうな椅子が置かれていて、左右の壁には仮面をつけられている人の肖像画と鍵の無い扉の絵がそれぞれ飾られていた。
壊れそうなこの椅子は、対話する相手がいないのを表しているのだろうか。そうだとしたら、寂しいものである。
仮面を押しつけられている人の肖像画はなんて不愉快なのだろうか。誤解に基づいた自分らしくない役割を表しているのではないだろうか。怒りが込み上げそうになる絵である。
鍵の無い扉の絵は共感や知識の欠如を表しているのだとすれば、見ていられないぐらい醜悪心そのものだ。必要なものを欠いておいて得られるなど愚の骨頂ではないだろうか。
内心の怒りを何とか抑え込みながら、歩みは次の展示物へと進んでいく。
そこにあったのは、壊れてしまった機械の絵と、何も無い皿の絵だった。
この二つは何を表しているのだろうか。怒りを抑え込みながら考えていく。
機械の絵は壊れてしまっている。ともすれば、負担が大きかったのか。これまでの展示物からは、無理解、誤解、欠落などがある。それ故に壊れてしまったのだろうか。
何も無い皿の絵は反抗を表しているように思える。自分のニーズ、つまりは必要に応えることができなかったことを表しているのかもしれない。
嗚呼、分かったぞ。これらの展示物は私の過去を表しているのだ。ウルドとは過去を司っている。私の過去の苦しみをこの個展で表しているのだ。
そして、私は個展名をはっきりと認識した。マイ・ダーク・ウルド。私の闇の過去である。
そこで私は目が覚めた。あの夢は一体どんな意味が有ったのだろうーー。




