第三夜
こんな夢を見た。
私はとある西洋の宮殿にいた。そこで騎士の甲冑を見ていた。
見ていると今にも動き出しそうな感じがする。防具立てに置かれ飾られているから、そんなことは無いはずだ。
もし、この甲冑が動き出すとしたならば、防具立てのほうに何かしら細工が施されているはず。
そんな形跡は見当たらないから、その線は無いだろう。素人目だから分からないがね。
もしくは、幽霊か何かが甲冑に憑依していたりとか。
科学が発達している現代において、そんなことは迷信の類いなのかもしれないがね。
そう言えば、この甲冑は誰が着ていたものだろうか。歴戦を潜り抜けた戦士なのだろうか。
そうであるなら、どれほどの返り血を浴びてきたのだろうか。
私は見ているだけ。なのに、気になって仕方ない。好奇心が刺激されてしまうのだ。自分でも分からないぐらいに。
持ち主であっただろう甲冑に刻まれている名前を見る。
しかし、大半の文字が霞みがかっていて、知ることができなかった。何故霞みがかっているのだろうか。しかも、名称の部分だけ。
嗚呼、分かったぞ。私に名を名前を知られるのが鎧にとって不都合なのだろう。
だから読めないようにしているのだ。霞みがかることによって。
しかし、この白銀の具合から見て、名を馳せた英雄のことを思い出さずにはいられない。
歴史の手の平から抜け出そうとしながら、別の運命に囚われてしまった英雄のことを。
はて、彼の名前は何だったのだろうか。名称のように記憶まで霞みがかっている。
どうやら、本当に名称を知られたくないようだ。
残念なことに、伏せることによって思い当たってしまっているのだが。白銀の死神ならば、霞みがかっていないようだ。悲壮勇猛の英雄と言えばいいのか。
そこで私は目が覚めた。あの夢は一体どんな意味が有ったのだろうーー。