第十夜
こんな夢を見た。
私は巨大な樹の木陰に居た。その樹はまるで巨木のように幹が太い。
近くには別の樹もあるが、これも大きい。巨大な樹である。
私は木陰から離れて二本の巨大な樹々を見比べた。まるで親子のようである。
巨大樹の親子。そう呼ぶのにふさわしい。こんなものが世界に存在するのだろうか。
見たことも聞いたことも無い。あるいはこれは、夢現の幻か何かだろうか。
分からない。しかしどこか安堵感を覚える。心が安らいでいく。そんな感じがする。
私が巨大樹の親子を見ていると、一匹の鳥がやって来た。鳩のように白い。だが、鳴き声は鴉である。白い鴉。確か、有り得ないことの例えとして用いられているのではなかっただろうか。
白い鴉の別の意味を考えてみる。思い返してみる。
確か、抵抗および非服従。不屈なる意志。反体制的な思想。自由への解放。淘汰されるべき異端。絶望的なまでの勢力の多寡。それらを表していたように思える。
壮大なる歴史の楽曲軍。その組曲を含めるのであれば。
考えてみる。しかし、何も思いつかない。何故ここに白い鴉がいるのかを。
いや、そもそも、私がここにいる理由すらも分からない。何故私はここにいるのだろうか。
考えてみても分からない。しかし、ここは有り得ないものばかりである。もしかしたら、ここは夢の中なのかもしれない。だとしたら、色々と説明がつく。
私が考え込んでいると、二本の花が視界に入った。黒い薔薇と白い百合である。
はて。先ほどまでここに生えていただろうか。あるいは、私が無意識の内に移動していたのかもしれない。
この二本の花にも何か意味があるんだろうか。
私は考える。思考を巡らせる。閃きを求める。しかし、何も得られない。
深呼吸する。瞑想をするかのように。ゆっくりと目を開ける。何も変わらない。
親子のような巨大な樹々。白い鴉。黒い薔薇と白い百合。
そこで私は目が覚めた。あの夢は一体どんな意味が有ったのだろうーー。




