A周目 -依頼と変化-
辺境伯から依頼と呼び出され、めんどくさがりながら辺境へと向かう
「はぁ…断れない依頼久しぶりに来たなぁ…今日は予定空いてるからいいけど」
そうこぼしながら違和感の正体がわかると言われれば気になるものは気になるのだ。と内心で行く理由を作りながら到着した辺境には話題となっていた勇者がいた。なんでも過去の代の勇者と比べて魔王討伐の進行が早いとか
「ふーん?勇者さまが依頼?珍しいこともあるもんだね。どこで聞いたんだい?この窓口を」
正直断れないこの依頼方法は厄介ではあるのだ。しかし基本年寄りしか来ない場所には似つかわしくない年齢の勇者が来たことに内心びっくりである。
感情を覗いたところ浮かべている感情は安心と喜び?であろうか…初対面の感情ではないな
「ほんとに会えた!!カタリベさん!」
そして吟遊詩人もどきとして通っている俺がカタリベとしっかり呼ばれているのも珍しい…確かに違和感だなこれは。そう思いながら返事を返す
「えーっと…勇者さんであってるかな?別に語り部は名前ではないんだけどね…」
そう苦笑しながら返事を返すが
「だったら勇者ってのも名前じゃないよ!!僕はカエって名前があるもん」
そのように返された。いやまあそれはそうなんだがと思いながら
「悪い悪い。俺はコフクって言うんだ。んで依頼ってのはなんの要件だ?」
そう自己紹介をして話を進めようとするがハテナという感じの表情で返された。いっとき考えて1人で納得したように話し始めた
「そういや知ってるはずなかったね。前回あんなに話が通るもんだからうっかりしてたよ…えっとね依頼ではないんだよ?ちょっと話を聞いてもらいたくてね?進捗…というか相談というか」
とそんなことを言い始めた。この時点でどういうことだ?と思ったが次の一言で納得する
「前の時はコハクは僕の現象をループ?って読んでたんだけど…これで伝わる?」
「あー……なるほど…もしかして確実に会える手段として前の俺はここを提示したな?」
「うん」
「確かにループだと俺の記憶は消えるもんな、納得納得。それだったら依頼じゃなくても構わん。どうせ前の俺がこれを提示するぐらいややこしい事態なんだ……それで今何周目なんだ?ついでに俺と前回会ったループの周も教えてくれると助かる」
ループという一言で事態を理解する。まあ相談というワードが出てきたということは糸口だけなげて放置したのだろう。仕方ないっちゃ仕方ないが
「…ほんとにわかるんだね?記憶あったりしないよね…?えっとね今が21周目で前回あったのが17周目だよ」
…なんて回数繰り返してるんだこいつは。初めに浮かんだのはその感想だった。どうせ前回も同じ疑問を浮かべたんだろう。そっから4周ってことはある程度進展したのだろう。一切進展なければ1、2周ぐらいで来るだろうからな
「なるほど……目的と一緒に4回の繰り返しで何をしてたのかを教えてもらっても?それで大体は理解できる」
ひとまずは何があったのかを聞くところからだ。それを聞いてから色々と考えようと一旦思考を放棄する
「目的?そりゃあループを抜け出すことだよ?…あとはいろいろアドバイスをもらって自分の状況から察知しようと頑張ってたんだけど…言われた通り呪いだったよ…しかもステータスにも現れず、神聖魔法も弾いて隠れ続けるタイプの」
ループを抜け出したいのは当たり前かと思いながら納得を示す。当たり前っちゃ当たり前だが簡単に見えるようだったらすぐに解除されてるし原因がわかるならそんなに周回もしないだろう…というか推定レベルカンストの察知が通らない呪いって……絶対喰らいたくねぇな…
「逆によく見つけたな…これが執念か」
「素直に褒めてくれてもいいじゃん!!」
「ごめんて…こちとら実感一切ないんだから許して」
当然だがこちらからすれば噂の勇者が押しかけてきて僕ループしてるんだよねって言われた感覚である。当然実感はあるわけがない。ただわかっていても納得できなかったのかカエは拗ね気味で言葉を返す
「まあいいけどさ……それでね発動する時の時間で呪いを見つけたのはいいんだけど呪いの詳細は結局わからなくてどうしようって思って相談に来たところだった」
まあ納得の理由ではある。ぶっちゃけ解決は本来至難の業ではあるだろうからな
「でもなぁ……呪い自体は俺自身が見れるわけじゃないからなぁ……」
「え?見れるよ?」
当然のように返されたがこちらからしたらなんのことやらって感じだ。
「一般人に見るのはきついだろ?俺別に感知能力高くないし…発動時見れたとしても発動は一瞬だろ?」
そう言葉を返すがどうやらちょっと違ったらしい
「それがね?深夜に発動してたっぽいから今まで気づかなかったんだけどね、30分ぐらいかけて発動してるっぽい。だからちょっと話す時間はあるし発動中は視認自体は割としやすいかも?」
その言葉を聞いてだいぶ進展してるんだなと思った。運が良ければあと数回の周回で解除できるんじゃないかと…ただそれは俺を呼び出す案件じゃないだろう
「多分神官とかを呼んだ方がいいと思うよ…流石にそれは俺の管轄じゃない」
と遠回しに断ったのだが
「釣れないなぁ……女の子と2人きりになれるチャンスなんだよ?」
はぁ……誘われてるのはわかった。あわよくば解決を狙ってるのもわかった…
「……うーん…俺はたまたま理解できるだけだからほんとに俺以外の方がいいぞ?言うてもしがない語り部だからな」
なんで俺が誘われてるのかもよくわからん
え?俺前回の周でなんかしたのか?…え??怖…絶対に思い出せないからなおのこと怖いじゃん
「そんな断らなくても……悲しくなるじゃん…まあ本音はね?理解してない人を最初に入れるのが怖いだけ…何が起こるかわからないし悪化させたくないじゃん?」
間違いなくその通りではあるだろう
ループを理解できる人が他にいない以上こうなるのは必然と言えた。さてどうすべきかと考えるが結論は初めから決まっている
「…はぁ…まあいいよ?協力してあげる。1日ぐらいなら予定も開けられるだろうから…魔王倒した帰りにでも寄ってくれればついていくわ」
そのように返事を返す
語り部であるから物語の改変に自分から関わるべきではない、ただし相手側から頼まれた場合はその限りでもない。その個人的な思想に則るかのように依頼を承諾する
「え!?ほんとに!?ありがとう!!なら魔王速攻で倒してくるから待ってて!!」
そう言ってダッシュで去っていくカエ
それをみながら作業に戻っていくコフク
「それに……物語の最後はハッピーエンドが望ましいからね」
そう呟きながら
その後勇者がここの辺境に戻ってくることはなかった