n周目 -前とは違う一周-
元となった作品はあります(もちろん細かい設定等は違いますが大筋のメインはほぼパクリです)
書籍ではないですが…
「もう…解放されてもいいよね」
そう呟く1人の少女
今にも落下しそうな崖の淵に立ちながらそんなことを呟く
しかし恐怖かあるいは別の感情か、その体が地面から離れることはない
「やっぱり…無理だよ…僕にはそんなことできないよ…」
そう呟き少女は地面にしゃがみ込む
そんな場面に俺が通りかかったのは偶然だった
「なんか見覚えのある顔だなと思ったが勇者さまじゃないか。そんなところで何をしているんだ?」
そんな声を聞いてバッと振り返る少女改め勇者
その顔に浮かぶ感情は…安堵と期待、そして諦めと言ったところだろうか…いずれも勇者が持つような感情ではなく、想像もできない体験をしていたのは間違いないだろう
「誰!?ここはそう簡単に人が来れるような場所じゃないはず」
そう言葉を返す勇者の言葉はあながち間違いでもないのだろう。ここは辺境の森の中、モンスターも強く一般人の立ち入りは禁止されている
「さあ?俺はしがない語り部…いや吟遊詩人と言った方がわかりやすいか?厳密には違うけどな」
そう言ってケラケラと笑う。
そんなテンションで話しているものだから勇者も自分自身の感情がバレてはいないと思ったのだろう。本来の目的を話し出した
「僕は近くの洞窟の奥のドラゴンを倒すように依頼されてここに来たんだ」
そう語った。しかしそれは正しい意味での真実ではない
「へぇ…まあドラゴンを倒しに来たと言うところは本当らしいな…」
感情が読めれば嘘というのを見破るのはさほど難しくない。もちろん本人は本当だと信じ込んでいたら話は別だが
「…え?バレてる…?いやそんなはず…」
そのように狼狽える勇者
この世界でも感情を読める人間は極一部だ。そのほとんどが国の重要な役割に就くことが多い。まさか吟遊詩人程度の人が見えるとも思っていなかったのだろう
「一部の人の間では噂になってるぞ?依頼を出さずとも問題を起こした魔物を討伐してくれる勇者だということはな。これでも噂には敏感なんだ」
そのように半分本当のことを呟く。感情が読めることがバレるのはあまりよろしくないからだ
「な、なるほど…」
そのように若干詰まりながら納得する勇者。
噂になっていたかな…?と考える勇者だったがその考えは正しい。
噂になっていたのはあくまで依頼者での間だけだ。一般の間では一切知られていないから仕方のないことだろう。むしろ一般人の間だと評判はすこぶるいい上に疑問すら抱いていない人が大多数だろう。
「それでそんな勇者さまはなぜパーティを組んでいないんだい?」
そのように当然に疑問を提示する。もちろん答えは知っている。ただこういうのは本人の視点というものが大事になる。噂や他人からの意見だけじゃわからないこともあるのだ
「……し、仕方ないんだ。すでに完成している力は皆が怯える。その上勇者というのはなんでもできてしまう…剣も魔法も…回復ですらも…仲間なんて必要ないんだ」
そのように自己暗示のような言葉を返す勇者
その考えも間違ってはいないのだろう。普通の人は他の勇者の事例なんて知らないから今の代の勇者がいかに強い…いや最初から完成しすぎているということを知らない
「そう…俺はそこが違和感しかないんだよな…本来の勇者は器用貧乏だ。そして勇者の祝福というものは全ての武器や魔法の適正、成長促進、勇者専用装備の装備適正だ。急に全ての適性を与えられても使いこなすのに平均ひと月はかかる」
「…どうしてそれを…」
勇者が困惑しているようにこの情報は本来は王族のみが知っている重要機密情報だ。
「さあ?なんで知ってるんだろうね?」
そのようにすっとぼける。その一言で話してもらえないことを理解したのだろう。勇者からは拗ねたような感情が現れる
「まあまあ拗ねるな。本題はここからなんだからな」
「拗ねてない!!」
食い気味に反応を返す勇者。その反応を笑いながら話を続ける
「今の代の勇者は何か変なんだよな。一番最初から戦い方を知ってるような動き。たまたま知識のある人が選ばれたのかと思って調べてみれば選ばれたのは今まで通り普通の町娘でしかない。それなのに勇者の力を授かって急に強くなったかと思えば慢心すらしていないと来た」
本来なら魔王討伐後に話を聞くところなんだが…というか一つ前の代の勇者はそのようにしたらしいんだが…
あまりに前例のない行動、特殊な精神状況、全てを知ってるような動きに違和感を感じたとある人から直接見てくるように依頼が入ったのだ。
それを聞いた勇者は焦りの感情を露わにする
「ど、どこから調べた!!」
そういいながらこちらに剣を構えてくる
推定レベルがカンストしてる勇者の敵意は流石にきついものがあるのだが、そこは気合いで堪える
「まあ落ち着いてくれ。そんな敵意を剥き出しにされても話すものも話せん」
そう聞くと勇者はひとまず剣を下ろしてくれる
敵意はそのままなので圧はすごいのだがそれに屈しててもしかたないので話し始める
「といっても別におかしなことではない。貴族や王族が怪しんで調査依頼を出した。それだけの話だ」
それでも勇者は納得の表情を見せない
それどころか「そんなこと今まで…」と呟く始末
「そのセリフが出てくるってことは未来視かあるいは…いや確認されたことがないものを疑うのも野暮か」
もちろん既存のもの以外の選択肢に入れればいろんなものが選択肢には入ってくる…だが、それまで疑えばキリがない…ただ未来視にしては行動の予知があまりの自由度が高すぎる上にレベルの説明がつかないのだ
「さて教えてくれるかい?本来であればあり得ない行動、レベル、そして……
洞窟のルート的にあり得ないこんな崖にいた理由を」
そこまで詰めると勇者は語り出した
元々ギリギリのところまで精神が追い詰められていたのだろう。おそらく一度誰かに話してその上で解決しなかったのだろう。
「……僕は…ずっと一定期間を繰り返しているんだ…」
そう語り出した勇者
「勇者に認定されて旅立つ朝から……魔王を討伐して帰還するまで…始まりの街に戻るとその瞬間に最初の朝に戻される……」
そのように今まで誰も経験したことがないであろう現象を語りだす。
「魔王を倒すのが条件なのかな?ってそう思ってた時期もあった……けどね…魔王討伐を辞めて生活すると1週間経ったときに最初の朝に戻されるんだ…」
話してる途中も諦めの感情を出しながら、貯めていたものを吐き出す。
「パーティだって最初は組んでいたんだ……一人旅はもちろん寂しいから……でもループするたびに同じ人と関係を築く…そんなのは苦痛でしかないよ。その上繰り返しても持ってるアイテムやお金、レベルは元に戻らないんだ……パーティを組んでも怖がられるだけ…だからパーティを組むのを辞めたんだ」
理解されないのは辛い、そしてたとえ理解されたとしてもループすればまた一からだ。その上同じように理解してもらえるとも限らない。そんな状態はうんざりだろう。
「言ってた依頼の件も…もうどこで何が起こってるかわかってる…それじゃあわざわざ知ってる人を見て絶望するのを繰り返したくはない…そんなの当たり前じゃないか…」
こちらの疑問も付け加えるように語った。
「これで満足!?理解できなくても僕は知らない!僕も未だもわかってないんだから…」
逆ギレのような口調で締める勇者。もちろん矛先はループそのものであって俺ではないのであろう。どちらかというとたまっていたものを出してそれでもなお解決しない現状に怒ってる感じだろうか
「…なるほど…納得だなぁ…まさかループ被害者を見れるとは……うーん見た記憶がなくなるのが残念かな」
俺はループ体験側じゃないので当たり前っちゃ当たり前の話ではあるがこの話を聞いた記憶が消えるのだ。悲しいかな時空を超えて記憶を保持する便利なスキルなんてものはない
「…え?疑わないの…?頭のおかしいやつだって思わないの…?」
怯えと驚きのような表情でこちらを視る勇者
といってもどちらかというとそういう反応をした人たちが正常なのであろう。パッと理解を示す方がおかしいのだ
「まあ別に整合性は取れてるからなぁ……というか、気になった点が一つだけ。今ループ何周目?」
当然の疑問だ。俺視点は世界は正常に回っているのだからどれぐらい繰り返してるのかなんて知る由もない
「……えっと…たしか…17週目?」
「うっわぁ……そりゃ精神やられて飛び降りたくもなりますわ。むしろその回数よく耐えたな」
回数を聞いて驚く俺。同じゲームを17周もやったらたとえパーティが選択できても地獄だろう。しかも難易度調整がない強くてニューゲームだ。俺だったら3、4周で飽きる
「そ、そうかな?」
話し始めて初めて嬉しそうな表情を見せる勇者
この回数繰り返してもまだ純粋なのか…やっぱ勇者なんだなぁとそんなつまらないことを考えながら
「よく頑張ってるよ。というか、反応的に予想が正しければ初対面だよね?16周で一度も会わなかったのもすごいな。いやおそらく俺自身のことだから王都で待機して次の日落ち着いたときに聞こうとしてるか…そりゃ会わんなぁ…」
これほどまでに予測しやすいことがあったであろうか。自分の行動は流石に手に取るようにわかる。ぶっちゃけ今回が気まぐれなのだ。
多分ここで見つからなかったら数時間探して諦めて帰ったことだろう。他の周はそんな感じで会っていないのだろう
「たしかに…一度も見かけたことないような気がする。カタリベ?って言ってたけどここまで来れるってことは戦えるでしょ?今回残りの旅一緒に来てくれない?来てくれたら今回は頑張れそう」
誘いをかける勇者。まあおおよそ話し相手が欲しいのであろう。戦闘力じゃ困ることはないだろうからな
それでも答えは決まっている
「ごめんなぁ…気まぐれで来ただけで旅をご一緒できるほど長く予定を空けられないんだ」
その言葉を聞いた勇者は露骨に落ち込む。新要素が消えたようなものだ。落ち込むのもしょうがない
「ただちょっとしたアドバイスだったらできるぜ?…運が良ければループが解除できるかもな?」
「!?そんなのあるの!?」
俺の言葉を聞いた勇者は今までで一番食いついた。ループさえ解除できれば悩みの種が消滅するのだから当たり前だが
「といっても前提として確定ではないが……ループものだとパッと思いつくありえそうなのが魔王の呪いとかなんだが……それはないんだよな?」
その節は魔王討伐をやめたくだりで否定はされているが一応尋ねる
「流石にありえないかな…僕もそれはずっと警戒してた。そんな片鱗すらなかったよ」
そうだろうなと思いながら言葉を続ける
「そしたらあとは2つか3つかな?1つはループの開始…今回だと旅立つ前かな?そこで何かされた…ってところ。正直これは一番確認が難しい。あとは勇者装備のいずれかにそういう効果が増えてるか…あるいは女神の気まぐれか」
正直最後はそこまでするんなら邪神な気もするが一番最初の世界を正道にすれば元の世界は勇者が失踪したという体で正しく進む。迷惑な話ではあるが不可能ではないだろう
「まあ呪いだったりすれば魔法技術を今以上に高めて察知するしかないから大変な道のりではあるかな…ループの終わる条件がわかれば手っ取り早いしそれがわかるように察知能力磨くのが手っ取り早いかな」
そのように話すと勇者は覚悟を決めた目になった。おおよそループを頑張って解除するために動きはじめようとしているのだろう
「ありがとう!!ループ解除できたらお礼はする!!……心が折れそうになったらどこに行ったら会える…?」
最後に若干涙目になりながらそう聞いてきた。
ぶっちゃけ住んでるところも留守にしてることが多いからとても返答が難しい質問ではあるのだが…
「そうだなぁ…強いていうなら……ここの辺境伯に語り部に依頼と伝えれば俺には伝わるかな。もっと確実にしたいなら違和感の原因を教えるとでも伝えればほぼ100で来ると思うよ」
ここの辺境伯にはお世話になっている。情報共有と依頼とでの共生関係とでも言えばいいだろうか。ただ知る人ぞ知る依頼口なので年寄りしか基本知らないのだ
「わかった!!次会う時はまたよろしく!いっぱい頼らせてもらうね?」
と言い残し去っていく勇者
「さて俺は理解するかな?まあ次のループの俺に任せようかな」
そう言葉をこぼしながら次の仕事へ向かう
ループすることが確定してるなら意味あるのかこれ?と思いながら……