54食目 異世界一マズい毒草キャンディ
「ヘンリエールさん、これどうぞ~」
「ありがとうございます……これなんですか?」
「海外出張のお土産です~」
こんにちは、ヘンリエールです。
わたしが働いている商業ギルド『カゼマチ食品』のイザヨイ支部から獣人族の国『サファリット』支部へ出張に行っていたギルド職員さんが帰ってきて、お土産を貰っちゃいました。
〝ハイエナ製菓/キャリオンキャンディ〟
「なんですか? これ」
パッケージに傷んだような色の肉片のイラストが描かれている。
え、これキャンディって書いてあるけど……
「これ、世界で一番不味いって言われてるキャンディらしいです~」
「なんでそんなの買ってきたんですか」
「面白そうだったので~」
まあお土産ならそうよね。別に自分が食べる訳じゃないものね。
「おお、アタシこれ知ってるぞ。なんでも、腐った肉みたいな味がするらしいじゃないか」
「えっ!? く、腐ったお肉味のキャンディなんですか……?」
裏面の原材料を確認してみると、肉を使っている感じはなさそうだ。
あくまでそういうフレーバーということだろうか。
「……ん? この主原料のダーティラフレシアって聞いたことあるわね」
「ダーティラフレシアならタプナードにも生えてただろ。ほら、あの紫色のでっかい花だよ」
「ん~……? あっあの沼地とかに咲いてる臭いやつ!」
ダーティラフレシア、別名『大腐乱花』。
花が咲くと沼の周囲に腐った肉のようなにおいが漂う毒草だ。
そういえばわたしやパーシアス先輩の故郷であるエルフ族の国『タプナード』にも自生してたな。
実際の毒成分は根っこにあるらしく、花の匂いは無関係らしいが、まさかその成分を使ったお菓子があるなんて……
「ヘンリー、食べてみなよ」
「パーシー先輩が食べるならわたしも食べます」
「アタシはまあ、あとで頂くよ」
「じゃあわたしもそうします」
「先輩の言うことが聞けないのかい」
「はいパワハラ! それはパワハラです~!」
わたしはとにかく駄々をこねた。
こんなもの、絶対不味いに決まってるんだから絶対食べたくないわ。
「それでは公平にじゃんけんで決めましょう~」
「「…………」」
自分はお土産配るだけだから随分気楽なものね。
「まあ、それなら受けて立とうじゃないか」
「わたしは受けませんが」
「ヘンリー、人様の善意を無下にしちゃいけないよ」
「そうですよ~。もしかしたらすっごい美味しくて、ウチの商品の原材料にも使えるかもしれないじゃないですか~」
「使える訳ないじゃないですか……」
うう、断れない雰囲気……まあいいわ、勝率は五分五分、ここで勝てば地獄に落ちるのはパーシアス先輩だもの。
「それじゃあ、いきますよ~。最初はグー、ジャンケン」
「「ポンッ!」」
―― ――
「う、うう……」
「さあヘンリー、グイッといっちゃいな」
「お酒じゃないんですから……」
「ドキドキ、ワクワク~」
「ふう……それじゃあいきますよ。森羅万象の恵みに感謝を……あむ」
…………。
「…………」
「ヘンリー?」
「ヘンリエールさん?」
…………。
……………………。
「ウ〝オ〝エ〝ェ〝ッ〝ッ〝!!」
【ハイエナ製菓/キャリオンキャンディ】
・お店:知らん。
・値段:知らん。
・料理:これは食い物じゃない。ただの腐った肉。はやく販売停止しろ。
ヘンリエール的総合評価:-444点。




