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07 悪いけど任せたよ

「――皇子、それは考え直した方がよろしいかと」


 気がつけば、俺は身を乗り出していた。


 第二皇子ベルゼリオの側に侍ること数日。

 どうにか感情を押し殺しながら護衛の任にあたっているけど、目の前のこれは、さすがに見過ごせない状況だった。上手いこと理由をつけて、馬鹿なことはさっさと止めさせないと。


「グレモンド。騎士風情が歯向かう気か」

「いえ、これは皇子のために申しておるのです」


 ベルゼリオは苛立ったように魔力を放出する。

 皇家の血筋の魔力は、一般的な貴族のものよりも強く、まるで猛獣のような威圧感がある。そのため、周囲にいる者たちはみなガクガクと震えながら膝を折り、自分に害が及ばないよう身を小さくしているんだけど。


 まぁ、長年に渡りアマンダと鍛えてきた僕にとっては、正直「こんなもんか」という感想しか浮かんでこない。


 さて、今の状況はというと。

 皇子の側近を名乗る一人が、婚約者の男爵令嬢の貞操が固すぎて何もさせてもらえないと不満を漏らし、それならば自分たちが「教育」してやろうとご令嬢を攫ってきた――という、何とも救いようのない馬鹿どもたちが雁首を揃えているのだ。


 俺はため息を堪えつつ、静かに話を進める。


「皇子。兄君の身に起きたことをお忘れか」

「兄……アルフレッドか」

「はい。アルフレッド様は側近の婚約者だったレモンバーム伯爵令嬢を、教育してやろうと物陰に連れ去ったところで……ローズマリー侯爵子息から激しい暴行を受け、謝罪を要求され、最終的には皇位継承権を剥奪される騒ぎにまでなりました」


 俺がそう話せば、ベルゼリオの魔力は少しずつ落ち着いてくる。そうそう、乱暴な真似はいけないよ。ちょっと冷静になって話をしようよ。


「これは自分の推測ですが……一連の事件は、アルフレッド様を失脚させるために仕組まれた罠だったのではないかと。後になって状況を思い返すと、そう考えた方が納得のいくことも多いと思うのです」

「なるほどな……つまり今回の件も」

「はい。皇子に隙を作るため、何者かが仕組んだものと疑ってかかるのが安全かと思われます。もちろん、決めつけることはできませんが」


 俺の言葉に、ベルゼリオは今回の件を持ちかけてきた側近をギロリと睨む。

 うん、ごめんね、これは完全に俺の口から出まかせなんだけど。そもそも婚約者のご令嬢の貞操を差し出すことで出世しようなんて馬鹿なことを企むような奴を放置できるわけないじゃんね。巡り巡ってアマンダが被害を受けるようなことになったら、絶対許せないし。こういうのは徹底的に潰しておかないと。


「兄君が失脚し、貴方は皇位継承権一位に上り詰めた。しかし潜在的な敵は多いかと思います。どうかお気をつけください」

「うむ。これが忠言というものか……わかった」


 そんな風にして、どうにかベルゼリオを止めたけど。

 問題なのは側近の男だよね。こんなことになれば婚約はまず破談になるだろうけど、襲われかけたのはチューリップ男爵家のご令嬢――つまり、あまり爵位が高くないからさ。身分差を盾にした報復なんかをされるのが怖いわけだ。


 俺は彼女を女性寮に送りつつ、こっそりと伝える。


「ローズマリー侯爵家に相談するといいよ」

「……え、あの」

「アマンダ・ローズマリーなら君を悪いようにはしない。侯爵家の庇護下に入れば、相手の報復行動は牽制できるはずだ。そのあたり、アマンダならうまくやってくれるだろうから」


 そうして、俺はチューリップ男爵令嬢のことをアマンダに丸投げすることにした。立場上、俺自身が色々と動き回るわけにはいかないからね。悪いけど任せたよ。


  ◆   ◆   ◆


 神経をすり減らす日々が続いていた。

 ある時は酷い虐めを受けていた男子を救出し、またある時は引き裂かれそうになっていたカップルを保護し、またまたある時は金銭を巻き上げられていた奴を解放して、最終的にはみんなアマンダのところに送り込むことになった。面倒かけてごめんね。


 そうやって活動していくうちに、いつしか俺は皇子から「堅物だけど信頼できる側近」として扱われるようになっていった。そうそう、そのくらいの立ち位置にいたかったんだよ。よしよし。


 そして、一年近くの時を皇子の側で過ごして。

 彼女がついに俺に話しかけてきたのは、二年生の秋もそろそろ終わろうかという頃だった。


「グレモンドさん。貴方が欲しいのは、アマンダ・ローズマリーよね? わたくしに協力してくだされば、彼女を貴方のモノにすることができると思うの」


 ジュリア・フォティニア。

 彼女は帝国北部の名門貴族フォティニア伯爵家のご令嬢で、かつては第一皇子アルフレッドの婚約者だった。今では第二皇子ベルゼリオの愛人のような立場になり、人目を盗んでよく絡まり合っている。いや、人目は全然盗めてないから、みんな見て見ぬふりしてるんだけどね。


 そんな彼女が、無造作に俺の手を取った。


「アマンダの忠犬、なんて呼ばれていた貴方の存在は、入学以前から把握していたわ」

「……なるほど」

「ローズマリー侯爵家はいずれ没落するわ。そして、ベルゼリオ様の妻にはわたくしがなりますの。それに協力してくださるのなら、落ちぶれたアマンダは貴方の好きにしていい。悪くない取引でしょう?」


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