04 小さな約束を交わした
十五歳になると、俺とアマンダは帝都第一学園に入ることになった。
俺は騎士科、アマンダは錬金科で学ぶことになる。授業はまったく別だし、寮はもちろん男女別々。同じ敷地内にいたとしても、顔を合わせる機会はぐっと減ってしまうだろう。
帝都に向かう馬車の中で、もしかしたら最後になるかもしれない、二人きりの会話を交わす。
「グレモンド。これからは、貴方とこうして話すことはあまりできなくなると思うの」
「うん、分かってるよ。さすがに俺たちが仲良くしてる場面を人に見られるのは良くないだろうからね。婚約者からの印象も悪いだろうし」
「そうね。私もそうだけど、グレモンドだって貴族なんだから、いつまでも独り身ではいられないでしょう……子どもでいられる時間は、もう終わってしまうのね」
自由な時間は、もうここまで。
俺はモヤモヤとした気持ちのまま、何かのトラブルで馬車が止まってしまえばいいと思ってたんだけど。そう願っている時ほど、旅というのは順調に進んでしまうものだ。
帝都までは、もう残り僅か。
「ねぇ、グレモンド……私が誰かのものになってしまっても。貴方に愛しい人ができたとしても……それでも、私のことを守ってくれる? この先ずっと」
「もちろんだよ。改まって語るまでもない。君のいる場所が、俺のいる場所だ。これからずっと、何があっても守るよ」
そう言って、アマンダの頭をポンポンと撫でる。
すると彼女は、空間拡張ポーチをごそごそと漁って何かを取り出した。何かの文様を象った、ペンダントのように見えるけど。
「あのね……これは、別に特別な効果のある魔道具とかではないんだけれど。どうか、これを首にかけていてほしいの」
「……アマンダ」
「もしもこの先、貴方の心が他の誰かのものになってしまって、もう私の騎士をやめてしまいたくなったら……その時は、このペンダントを捨ててほしい。だけれど、貴方がこれを身に着けていてくれるなら、私はいつまでも貴方を信じられる」
そうして、彼女は俺の首にペンダントをかける。
「なるほど、これからはあまり会話できないから」
「えぇ。気分が落ち込んだ時には、貴方の首にペンダントがかかっているのを確認して、頑張ろうと思うの」
「賢いな。俺も何か用意しておけば良かった」
俺がうーんと悩んでいると、アマンダはくすくすと小さな笑い声を上げる。
「それでは、こうしましょう。これから私は、グレモンドと目があったら、鼻の頭にそっと触れる。そうしたらグレモンドは、胸のあたり――服の下に隠してあるペンダントがある場所をポンポンと撫でる」
「手が塞がってたら?」
「塞がってない時を狙うわ」
そんな風にして、俺たちは小さな約束を交わした。心というひどく曖昧で移ろいやすいものを、どうにか確かめ合うために。
◆ ◆ ◆
さて。帝都第一学園に入ってしまえば、そんな感傷など押し流すように忙しい日々が待っていた。
左のもみあげを細い三つ編みにして、他の部分は短く刈り込む。すっかり騎士見習いの頭髪になった俺は、鍛錬にも勉強にも手を抜かないよう努めていた。
騎士にとって戦闘能力というのはもちろん重要なものであり、文官騎士でさえ有事には剣を取れるように鍛えておく必要がある。
だけれど、学園で騎士科の生徒が学ぶのは戦闘のみではなかった。貴族の領地経営をサポートするためのノウハウ。民間人で構成された領兵団を指揮して警邏や消防の任をこなす訓練。書類仕事のための各種知識だって色々と必要になってくるのだ。
「グレモンド・ジンジャー。決闘だ」
「はっ。自分でよければ相手になりましょう」
騎士科では試験での得点の他に、決闘によって相手の点数を奪うことが奨励されており、そういった諸々を含めて順位が日々変わっていく。卒業時には、そういった成績変動も加味して進路が決まるのである。
俺は入試の時から首席であり、その後の決闘でも負けなしだった。ようはずっと学年一位をキープしていたわけだ。とはいえ、週に二度三度と決闘をこなしながら座学にも手を抜かないというのは、なかなか大変だったんだけど。
アマンダが第二皇子の妻になり、俺は皇家の近衛騎士団に入る。
その未来にたどり着くには、生半可の努力では足りないだろう。そう思って、同じ騎士科の生徒から「ガリ勉」と陰口を叩かれるくらいには、鍛錬も勉強も頑張っていたと思う。
「それにしても、学ぶことが多いな……」
少し心が疲れた時には、学園の食堂でアマンダを探す。そうして、彼女が鼻に軽く触れるのを確認し、俺は胸をポンと叩いて、気合いを入れ直すのだ。
今思い返すと、三年に及ぶ学園生活の中でも、あの時期が一番「平穏」だったと思う。描いた未来に向けて、無心になり、ひたすら自分を追い込むだけで良かったのだから。
「――ふざけるなよ、あのアマンダとかいう女。私はあんなのと結婚させられるのか。最悪だ」
中庭で、第二皇子が取り巻きに向かってそう話しているのを聞いたのは、学園に入って半年が過ぎようとしている時だった。