4 覚醒したアトラ
どのくらい泣いていただろうか。
気が付けば泣きつかれて気絶するように寝ていた俺が顔を上げれば夕暮れとなっていた。
落としていた革袋から水を飲むとよたよたと魔石がある台座のような場所で横になり目を閉じる。
歩き疲れていたためか、まだリヴァイアサンの魔力が体に適合していないのか酷く疲れていた俺はもう一度目を閉じる。
今まで感じなかった温かな繋がりが胸の奥で感じ、何だか母親みたいだななんて感じながら心地よく意識を手放した。
空腹を感じて目を覚ますと朝になっていた。
それと共に初めて感じる意識の透明感。
やはり父から邪法の影響を受けていたために俺の意識はぼんやりしていたらしい。
リヴァイアサンのお陰で明瞭なった意識で世界を改めてみると全然違った。
空は青いし、気温は暖かく、風は心地よくて、海の匂いが新鮮だ。
北の島、北東の島、南東の島、南西の島、北西の島があってそれぞれで異なる自然が息づいているのも分かる。
周辺の海は浅瀬がある程度続いた先は急に深くなっておりいつしか聞いた魔物の気配を感じかなりやばそうな気配だ。
何故か島の中や周辺のことまで何となく分かるようになっているがこれが普通なのだろうか。
何だか空気や魔力の流れも感じようとしたら感じられるみたいで少しそわそわするけどいずれ慣れる、そんな気もする。
「おや、誰か来たのかな」
自分が漂流した小舟がある地点に穏やかな気配をした何かが到着するのを感じた。
何かを探しているような気配だし、ちょっと行ってみようかなと思った俺は歩き始める。
骨の道の途中で自身の体が偉く軽いことに気付いた俺はそこからは走ってみた。
想像以上に速く、何だか楽しくなってジャンプしたり、木々の合間を飛び移ってみたり、丘を全速力で走ってみたら直ぐに砂浜に到着した。
「あ!ミレーだ」
「おはようアトラ!何だかすごく元気になってるね!」
見覚えのある紅色の髪があるのがわかり直ぐにミレーだと気づいた。
相変わらずえらく顔が整っている美人で柄の入った布を胸元に巻いていておへその下は昨日最後に見た魚スタイルだった。
見間違いでは無かったようでミレーはやはり人魚なのだろう。
そして俺が乗ってきた船に色々な道具が入っていることに気付く。
「おはようミレー。リヴァイアサンから力をもらって元気になったんだ。その船の中の物はどうしたの?」
「そうだったんだ!よかったね。これは昨日家に帰ってから暮らしに役立ちそうな物を持ってきたんだよ」
土鍋やお皿やコップ、ナイフにフォーク、小さな椅子に小さな机などなどどうやら人魚と人間の暮らしは似通っているのであろう。
ありがたいし、人から優しくされて胸の奥がジーンとしている。
「使ってない物を持ってきただけだから気にしないでね!」
「ありがとうミレー。助かるよ」
心を込め礼をするとミレーは少し照れたような苦笑いのような顔をする。
「さっきは気にしないでって言ったけどたまに遊びに来ていいかな?私友達少なくてさ」
「もちろんだ。いつでも来てくれて構わないよ。一人で住むにはこの島々はとっても広いからね」
確かに何てミレーが言って後ろを見ればリヴァイアサンの骨が今日も白く輝いていた。
流れ着いて力を手に入れた俺だけど、ここで過ごしていくのも悪くないかもしれない。
大陸には俺の父親のような悪い邪法を使う人間もいるし怖いってのもあるし、父親や王国に対して思うところが無い訳でもないけれど、貴族の人に言われたように残りの人生、海と共に過ごしてみようかな。
そんなことを思えるほどこの島は豊かで色々な物で溢れていた。