1 島流しの刑
穏やかな波の音が心地よく響く。
海鳥ののんきに鳴く声がこだまし自分が海の上にいることを再認識させられる。
ボロボロの木造船ながらもきちんと修理されているのは自分を島流しの刑に処した年配貴族の気遣いだろうか。
船の中に入れてくれていた革の水袋で喉を潤すと幼い頃からの体質でぼんやりする頭でその時の記憶を呼び覚ます。
「帝国に寝返った元辺境伯バアル・ぜブラントが庶子、アトラよ。お主を島流しの刑に処す」
手を後ろで縛られながら正座させられた俺の前に立つのは煌びやかな鎧とマントを纏った老年の貴族であった。
貴族の後ろには兵士らしき者達が自分が何かしようものならその手に持つ槍で突くと言わんばかりに自分を睨みつけているが、自分にそんな気力は無い。
「邪法を使用していることが発覚した場合本来であれば一族郎党皆殺しであるが、庶子であると共に辺境伯の邪法により力を奪われたその身は元辺境伯の被害者でもある」
王国の印が付いた手紙を読む貴族の話を聞いて、自分の父親はそんなことを俺にしていたのかと僅かに驚愕するが上手く回らない頭の理由も理解した。
「王からの恩情に感謝すると共に、残りの命を海と共に過ごすがよい。……これはせめてもの選別である」
おもむろに貴族はその背に着けていたマントを脱ぐと自分に被せた。
かなり高価な物であろうが分厚い生地は雨風をしのぐにはもってこいだ。
憐みの視線を自分に向ける貴族ではあるが自分は何も感じないし感じることができない。
「ありがとう、ございます」
ぼんやりとする頭でもなんとかお礼を貴族言って頭を下げ、それが自分の王国での最後の記憶となった。
思い出し終わると何だか眠くなってきた。
こんな体質なので今まで海に近づくことなく家で過ごしていたが何故だろう、海の上にいると穏やかな気持ちになるし、海から元気をもらっている気がする。
海の中は魔物でいっぱいだしこの辺りは海竜だっているんだぜって島流しの刑のとき野次馬が言ってた割に静かだ。
まるで意思があるかのように船は進んでいるし舵もオールも無い船だから自分に出来ることは無い。
ごろんと体を横にすると遠くで歌声がする幻聴を聞きながら自分は意識を手放した。