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天才たちとお嬢様  作者: 釧路太郎
危険な兄と妹編

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ギリギリで避ける意味

 藤次郎さんが振りぬいた刀は昌晃君の首をはねてはいなかった。あの状態からどうやって避けたのかと思っていたのだが、目を逸らさずに全て見ていた綾乃の話では藤次郎さんの刀が鞘から出た時にはもうすでに昌晃君が椅子ごと後ろに倒れて避けていたとのことだった。

 天樹透の時もそうだったのだが、俺達のクラスには危ない上級生しかやってこないのかと思ってしまう。何でこんなに簡単に刀を振り回すことが出来るのだろうか。

「なんでお前は避けるんだ。避けてしまったらお前の首をはねることが出来ないだろう」

「普通に避けるでしょ。普通に殺意高すぎだし。なんでそんなに僕を殺したいのさ?」

「決まってるだろ。お前を殺して俺が愛華さんの隣に立つんだよ。それ以外ないだろ」

「僕を殺したところで愛華の隣にはいられないと思うけどね。僕を殺せば君は警察に捕まるだけだと思うけど」

「警察なんて俺の敵ではない。いくら数が多かろうが俺が全員この妖刀卑怨で斬り殺してやる」

「ああ、完全にそっちに行っちゃってるって事ね。それならそれでこっちも本気で行っちゃいますか」

 天樹透の時と異なるのはやってきたのが藤次郎さんただ一人であるという事と、その藤次郎さんが昌晃君以外を全く見ていないという事なのだ。

 みんな藤次郎さんの目的が昌晃君だとわかっているからなのか、少しずつ壁際に移動して昌晃君との距離をあけていたのだ。俺も申し訳ないとは思いつつも、綾乃の手を引いて壁側へと移動して事の成り行きを見守っていた。

「みんなに危害が及ぶことは無いと思うけどさ、万が一って事があるかもしれないからさ、出来るだけ離れて見ててね。間違っても、僕を助けようとして近付いてきたらダメだからね」

 昌晃君は藤次郎さんの動きを全く見ないまま全ての攻撃を紙一重でかわしているのだ。どうしてそんなことが出来るのか想像もつかないのだが、俺が見ている限りでは本当にギリギリのところでかわしているのだ。角度によっては昌晃君が斬られてしまったと勘違いしてしまうのかもしれないが、見守っているクラスメイト全員が昌晃君が無事にこの場を乗り切ることが出来るようにと祈っているに違いなかった。

「先生を呼びに行った方がいいよね?」

 普通に考えれば入口に一番近い場所にいる俺か綾乃が先生を呼びに行くべきなのだろうが、あまりにも現実離れした出来事が目の前で起きていたので行動に移すまでに時間がかかってしまっていた。だが、そんな俺の提案を綾乃は必要ないと一蹴してきた。ジェニファーさん達もそれに同調していたのだが、それはこの状況を綾乃たちが仕組んだのではないかと思ってしまうように感じざるを得ないのだ。

「もう少し見守りましょう。中途半端な状態で終わらすのは藤次郎さんにとってもっと悪い結果になってしまうと思います。それに、昌晃さんでしたらどんなに時間が過ぎても大丈夫だと思いますよ」

「そうは言ってもさ、ちょっとでもタイミングがズレたら昌晃君が殺されちゃうと思うんだけど」

「そう言ったことにはならないと思うので安心していいですよ。将浩さんはあの二人から目を逸らさずに最後までしっかりと見届けてください。またあとで何か聞くかもしれませんし、そうなった時に見てませんでしたと言われても困りますからね」

「でも、俺は同級生が、友達が刀で斬られそうになってるのを黙って見てることなんて出来ないよ。そうだ、この椅子を投げて藤次郎さんの動きを止めてしまえばいいんだ」

「お嬢様の代わりに申し上げますが、それはやめた方がいいと思いますよ。ここで二人のリズムにずれが生じてしまうと藤次郎さんが昌晃さんを斬ってしまう可能性が出てきてしまいます。将浩さんも見ててわかると思いますが、昌晃さんは今完全に藤次郎さんの動きと同調して避けているのです。そのリズムが予定外のところで狂ってしまうと避けられるものも避けられなくなってしまうのですよ」

「そうは言ってもさ、俺はこのまま黙って見てることなんて出来ないよ。せめて、何か昌晃君の手助けになることをしたいよ」

「残念ながら私達に今出来ることは何もありません。私達メイドも綾乃お嬢様も今は見守ることしか出来ないのです。ただ見守っていることしか出来ないのです。しかし、私達は将浩さんと違って心配などしておりません。余計な事をしてしまうとそれがかえって昌晃さんの負担になるという事もあるのですよ」

 俺達の見ている角度からでは何度か昌晃君に妖刀卑怨が触れているようにも見えるのだが、昌晃君に刀で斬られたような様子は見られなかった。なぜあそこまでギリギリでかわしているのだろうと思っていたのだが、そうする事には深い意味があったのだ。

「将浩さんはどうしてあんなにギリギリの距離で避けているのだろうと思っているのでしょうが、それにはちゃんと意味があるのです。藤次郎さんの動きを感じてギリギリのところで避けているので距離を保てばもっと安全に避けられると思っているのでしょうが、そうする事によって生まれるデメリットがあるのです。そのデメリットとはずばり、この教室を広く使ってしまうという事なのです。妖刀卑怨は魔剣亞燕に対して刀身も長く有効距離も長いのです。昌晃さんが大きく良ければそれに続いて藤次郎さんも移動することになると思うのですが、そうなってしまうと壁際にいる皆さんに妖刀卑怨の刃が届いてしまう可能性が出てきてしまうのです。昌晃さんは藤次郎さんの動きを完全に読んでいるので避けることに何の問題もないのですが、私達は最初の何度かは避けることが出来ても昌晃さんのように避け続けることは出来ません。それが出来るんでしたら今みたいな状況になる前に藤次郎さんを取り押さえていると思いますからね」

「言われたらそうなんだろうなって思うけどさ、もう少しくらいなら距離をとってもいいんじゃないかな?」

「そうですね。もう少しくらい距離をとっても私達に会の刃は届かないと思いますが、距離をとらない事にはもう一つ理由があるのです。その理由とは、昌晃さんが藤次郎さんの動きを完全に抑え込むためになるべく近くにいないといけないという事なのです。見ていてわかると思うのですが、藤次郎さんの動きには振りぬいた後にも全く寄せ付ける隙が無いという事なのです。おそらく、剣道で培った動きだと思うのですが、打ち終わりにも全く隙が無く昌晃さんが飛び込むタイミングを掴めていないのです。そのタイミングを見極めるて反撃に出るためにもなるべく近くにいる必要があるという事なのです。少しでもタイミングを間違えてしまうと斬られてしまうのですが、昌晃さんはそうならないタイミングを今か今かと待ちながらじっくりと藤次郎さんの動きを観察しているのです」

 藤次郎さんは妖刀卑怨を振りぬいた直後に出来るはずの隙が全くないのだ。藤次郎さんが剣道で培った技術と妖刀卑怨の持つ不思議な力がそうさせているのかもしれない。後ろから藤次郎さんを押さえたとしても、ギリギリのところでかわしている昌晃君に刃が届いてしまう。俺達は本当に見ていることしか出来ないのかと思っていたところ、突然教室の扉がゆっくり開いていった。

 始業のベルはまだなっていないと思うのだが、もう相内先生が来たのだと思って廊下を見ると、そこに立っていたのは相内先生ではなかったのだ。

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