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第11回書き出し祭参加作品「婚約破棄バスター!」

連載予定ですが、まだ準備中です。

理不尽な婚約破棄が行われようとする時、彼女は颯爽と現れる!

その名は婚約破棄バスター!



 暗闇に閉ざされた街道を、一台の立派な二頭立ての箱馬車が駆ける。護衛役の騎馬から代わる代わる前方に投げる「灯火トーチ」の魔法による灯りを頼りに、何かから逃げるかのごとき速度で駆けていく。

「皆、大丈夫!?」

 不意に開かれた箱馬車の小窓から同行する男達へと愛らしい声がかけられた。その声に、すぐ横を馬で併走している騎士が朗らかに答える。

「大事ありません! 待ち伏せも獣もおりませんのでね!」

「無理させてごめんなさいね! でも今夜中に国境を越えないと ――!」

「委細承知しております! 今は我らに任せてお休み下さい!」

「ありがとう!」

 ―― 漆黒の闇の中を、わずかな灯をよりどころに、馬車が駆けていく。

 何かに追われるように。または。

 何かを追うように。


 王立高等学園のきらびやかなダンスホールは本日、卒業式を終えたばかりの若き貴族、その親族が集い、装いも華やかに互いに卒業を寿いでいた。同様に、優秀な成績を以て卒業後は宮中への仕官が保障された平民出身の奨学生達もまた、貴族に遠慮しつつもホールの一角で喜びを分かち合っていた。

 だが、そんな、輝かしい未来を寿ぎ合っている者達の耳朶を不快とも言える男声が打つ。

「アリョーナ・ナレフィカ! 出よ!」

 変声期後とはいえ、まだ厚みを持てないその声は、語気も相まって正直耳障りだ。しかし声の主がこの場で一番身分の高い者であるため、無視もできず周囲は涸れに注目した。

 ホール中央に堂々と仁王立ちするその容貌はさすが王族の血筋と納得するだけのものはある。そして一歩下がって雁首、いや整列している側近達もまた、高位貴族出身だけあって、それぞれに見目が良い。だがしかし、その集団の中に激しく違和感を放つ存在がいた。

 照明を当てられずとも目に痛い、ショッキングピンクの緩くウェーブかかった髪をハーフアップにし、手折れそうなほど細い首にはいっそ拘束具かと見紛みまごうばかりのバカでかい宝石をいくつもあしらったペンダント。元は華奢なのだろうその体を、本来の倍以上に膨らませて見えるまでに盛りに盛られたフリルとレースの権化のようなドレスに包んでセンターに位置取る王子の腕にしがみつく少女は、ありとあらゆる意味でこの場にふさわしからぬ。

 だがそれを言うなら、このトンチキな集団そのものが卒業資格もないのにこの場の誰よりも主役面して登場したのだから、全員ふさわしくないのだけれど。

 とはいえ、王子は王子、呼ばれたからには無視もできず、1人の淑女が楚々と進み出た。

「ナレフィカ候が第一息女アリョーナ、お呼びにより参じました。殿下におかれましては御機嫌麗しゅう ――」

「麗しいわけがあるまい! この売女め! よくもこの私をたばかり、その上我が最愛のひとに暴力を振るったな! その罪、万死に値すると思え!」

 アリョーナの挨拶を罵倒で遮った王子は、続けざまにしえないげんを放った。その内容は、礼儀を弁えた周囲の貴族達がどよめくほどである。対して、その罵倒を叩きつけられた当人は唖然と言葉を失って立ち尽くしていた。

 それらの反応に気を良くしたか、王子どころかその背後に立つ側近達までもが彼女に罵声を浴びせ始める。

 同じ子息令嬢という未だ爵位を持たぬ同士とはいえ、厳然たる生家の家格の差すら考慮せず、やれ誰それに水をかけただの持ち物を壊しただの爪弾きにしただのと、どこの幼年学校の話かと耳を疑う内容であったが、それが告げられるたびに「もう止めて!」「私のために争わないで!」「今なら謝ってくれたらゆるしますから!」とかくだんのフリル娘が悲痛っぽい声を上げているので、一応彼女がその被害者とやららしい。そしてそのセリフの度に正義の糾弾者とやらが「君はなんて優しいんだ!」「さすが聖女!」と、太鼓持ちもかくやという勢いで誉めそやすものだから、周囲の視線から戸惑いが消え、呆れ一色のそれに変わる。

 おそらくは、この場の誰よりもさっさと立ち去りたいのに立場上絶対にそれはできないアリョーナ嬢は、広げた扇の陰で大きくため息をつくと、三文芝居中の集団に険しい目を向けた。

「被害妄想もここまでくると滑稽ですわね。その恥知らずの痴女が全学園生徒から嫌われ避けられているのはまごうかたなき真実ですけど、あなた方が誇らしげにあげつらった犯罪とやらは事実無根ですわよ?」

 そこから双方全く噛み合わない舌戦を交わす事しばし。遂に痺れを切らせた王子が声を張り上げた。

「もう我慢ならん! 貴様のような悪女との婚約など破棄だ! その罪状を以て国外追放に ――!」

「ちょぉっと待ったあ!」

 ばーん!

 締め切られていた正面の大扉が轟音とともに大きく開け放たれた。期せず一斉に集中した視線の先に、豪奢な金髪をドリッドリに縦ロールにし、上品なドレスをまといながら何故か白いものを肩に担ぎ堂々と仁王立ちする少女 ―― と背後に侍女一人 ―― がいた。

「何者だ!?」

という鋭い誰何すいかをよそに、軽い靴音一つで一直線に前に跳んだ少女の姿は、次の瞬間王子の目前に到達していた。

「速 …ッ!」

「こぉの ――!」

 驚愕する一同に構わず、少女は肩に担いでいたはずの白い何かをぐん、と振り被ると ――。

「色ボケバカチン王子がぁッ!」

 すっ …ぱぁぁんッ!

 王子の顔目掛け、全力で横薙ぎに振り抜いた。

 実に、良い音がした。

 真正面から顔を打たれた王子が後ろにふっ飛ぶ。一拍遅れて、誰かのカン高い悲鳴が上がった。しかしそれよりも速く、少女が次の標的目掛けて跳ぶ。

「ひとぉつ! 己の不貞不実を棚に上げ!」

 すぱあんッ!

 まず宰相の息子が張り飛ばされ。

「ふたぁつ! 不正予算を貢ぎあげ!」

 恐らく最も非力な魔法長官の息子が吹っ飛び。

「みぃっつ! 理不尽を強いるドアホ共を!」

 すぱあんッ!

 ようやく我に返って腰の剣に手をのばした騎士団長の息子をも張り倒し。

 ででん! 

 びしりと手にした白きハリセンをひっくり返った男達に突きつけて。

 少女は高らかに名乗りを上げた。

「退治てくれよう! 人呼んで『婚約破棄バスター』!!」

 おーほっほっほ!


「―― という夢を見たのよ」

「夢オチかい」

 ぴっちゅぴっちゅと小鳥のさえずりも愛らしいテラスで紅茶を飲みながら語って聞かせた少女に侍女が突っ込んだ。が、少女は気にせず続ける。

「あ、あとね、そのハリセンにはぶっとい筆文字で『かーすぶれいかー』って書いてあって、ぎゃーぎゃー言ってたひっつき女にはあなたがさくっと魅了封じつけてた!」

「―― まあ、お気持ちは判りますけど」 

 実際、今現在の学園の風紀は悪すぎる、主に色恋沙汰的に。

「そーなのよー。もう、また学園であの浮かれポンチ達のバカ騒ぎ見るかと思うとさー」

「お嬢様、言葉遣い」


 そして2人は休み明けである明日からの学園生活を思いやって深く深~くため息をつくのだった。


「あー、もう、ガッコ行きたくなーいッ!」

「ダメです」

 立場的に諫めつつ、内心大いに同意する侍女の心もまた、ささくれていくのだった ――。


 巻き込まれ必至のお嬢様の明日はどっちだ。

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