クライミライ
語感もいいし、韻も踏んでると思ってつけたタイトルが某人気(?)ソフトと同じでした。
このお話は18禁ではありません。
いつの頃からか、結婚は義務とされた。
それと言うのも、国が崩壊するくらい人口が激減してしまったからだ。
私はもうすぐ30代後半。同級生の大半が結婚している。
40歳までに結婚して出産しないと懲役刑だ。何と恐ろしい世の中なのか。
しかし結婚は1人でできるものではない。いくら義務とは言え、全く好きでもない相手と結婚し、その上子供まで作る事は、懲役刑以上に苦痛である。
いっその事、刑務所に行こうかとも思ったが、それも茨の道だ。
刑務所では、「強制出産」をさせられる。強姦されるわけではないが、強制的に人工授精させられ、妊娠するまで出所できないのである。
ある意味好きでもない男と結婚するよりはマシかとも思えたが、そうでもない。
妊娠した子のDNAを調べて「父親」を割り出し、その「父親」と結婚させられるのだ。
出産能力があり、結婚しない女(できない女も含まれる)には過酷な世の中だ。
中には服役を免れるために偽装結婚し、子供を育てられない夫婦から養子を取る者もいた。
一見合法的に見えるが、実質的な人口増加に繋がらない為「国家詐欺罪」になり、懲役である。
この法制度が施行されてから、若い女性の自殺が激増した。
若い女性を子に持つ親達は、子供が自殺すると刑務所行きなので、細心の注意を払っていた。しかし防ぎ切れるものではない。
こうして刑務所は許容量を超え、機能しなくなってしまった。
しかし政府は方針転換をせず、とうとう国外脱出組まで現れた。
ここに至り、ようやく政府は方針を変えた。しかしそれは更なる悪夢となった。
「結婚はしなくても良い。夫婦として生活しなくても良い。とにかく子供を生むのが義務」
もはや女性は人間ではなく、「出産装置」でしかなくなってしまった。
政府は優れたDNAデータを持つ男をリストアップし、出産経験のない女性を対象に人工授精の募集をした。
募集とは名ばかりで、実際は強制的に出頭させられ、強制的に妊娠させられ、強制的に出産させられた。
今私の目の前に「人工授精応募要項」という通知がある。
幸い私は両親をすでに亡くし、自殺しても迷惑をかける人がいない。
しかし自殺は敗北を意味する気がし、したくなかった。
考えあぐねていると、携帯電話が鳴った。私は政府の出産関係の部署からの連絡だと思い、ギョッとしたが、番号は非通知で、誰からの電話かわからない。
私はおかしな電話だったらすぐに切ろうと思い、出た。
「私達は反政府組織の者です。女性を装置として扱う今の法制度と戦うための集まりです。貴女も参加しませんか?」
私は混乱した。そんな組織があるのも驚きだが、政府と戦う事などできるのだろうか?
「貴女が躊躇するのはわかります。しかし政府は次の手立てを考えているのです。今はまだ強制妊娠ですが、やがては強姦同然になるのです。早く家を出て、私達のところに来て下さい。ともに戦うかどうかは、それから考えて下さって結構です」
私は決心し、家を出た。
教えられた住所は、昔飲み屋街だったところの一角で、地下にあるフロアらしかった。
重々しい大きな扉を押し開いた。そこには白衣を着た医師らしき男が三人立っていた。
「ようこそ。さあ、そこに座って。大丈夫、出産は怖い事ではありませんから、安心して下さい」