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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第九十六夜 夜間トンネル

 O市にあるトンネルでの出来事である。そこは山を貫いた全長五キロメートルほどの旧トンネルで、かつては多くのドライバーが利用していたが、現在はそれに代わる新しい道路が開通したことによりあまり使われなくなっていた。

 Nさんは地元の友人ふたりの三人で一緒に遊んだ帰り、車でそこを通ることになった。

 誰も旧トンネルを使ったことがないということで、遠回りにはなるが肝試し感覚の軽い気持ちで通ることにした。

 時刻は零時を過ぎていた。トンネルの前まで行くと、肌寒い空気が車体を突き抜けてくるかのように皮膚がピリピリする。霊感も何もない三人でも、なんだか異様な雰囲気を感じた。

「なあ」助手席に座っていたNさんが異変に気付く。「トンネルの向こう、暗くないか?」

 すると運転席にいた友人は笑った。

「そりゃ真夜中なんだから暗いだろ」

「そうじゃないって、異様に暗いんだよ。ここナビを見ると一直線だろ。だから普通トンネルの出口が見えるはずなんだ。でも無いんだよ。途中からまるでライトが全部消えているみたいに」

「なんだよビビってんのか?」

 後部座席の友人が茶化した声で笑う。

「そんなことねえけど……」

「でもここまで来て引き返すのもなあ。まあ、別にどうってことないだろ」

 車はトンネルを徐々に通過していく。十メートル、百メートル……すると、今まで点いていたはずのトンネルのライトがふっと消灯した。思わず急ブレーキを掛けて停車する。見回してみても辺りには何も見えず、車のヘッドライトすら一二メートル先ぐらいしか照らすことができない。車体は完全に闇に包まれた。

「なあ、ほらやばいんだって!」

「なんだよこれ! 何が起きてんだよ!」

 車内はパニックになる。

「いいから早く出よう。ゆっくり進んで、そうすれば出口につくから」

「そ、そうだな……」

 しかし、いくら進んでもトンネルは途切れない。真っ暗闇の中をひたすら走り続けているだけである。

「これ絶対おかしいよ。なあ?……」

 しばらく経って異変に気付いたNさんが後部座席を見遣ると、そこには空のシート。後ろに座っていたはずの友人の姿はどこにも見当たらなかった。

「消えた……」

「消えたって、どこにだよ。こんな暗闇の中俺たちに見られずにドアを開けて外に出たって言うのかよ」

「知らねえよ。あーもう訳わかんねえ。とにかく外に出よう。それで警察を呼ぶんだ」

 いったい何が起こったのか状況が飲み込めないまま、ひたすら車を走らせていると、ふと目の前が急に明るくなった。

 その瞬間。急ブレーキでタイヤが激しく擦れる音がして身体が大きく揺れた。後部座席を見ると、額から滝のように汗を流して今にも泣きだしそうな友人が座席に座っていた。辺りを見回すと、そこはトンネルの出口だった。


 後から聞いた話だと、彼もまたトンネルの中を走っている間、Nさんたちの姿がふっと消えたという。空の運転席と空の助手席のまま、車だけはゆっくりと動いていたらしい。どうやら三人は互いに説明もつかないような謎の空間をしばらく走っていたのだ。

 それから三人はあのトンネルを使うことは絶対にしないと決めたという。


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