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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第九十五夜 市松人形

 とあるクリニックの受付をしていたYさんの話である。

 そこは住宅地の真ん中にある小さな町医者の開いたクリニックで、一日で訪れる患者もまばらでのんびりとしている。そのほとんどが地域住民のため、よく診察に来る患者の顔はすぐに覚えてしまったくらいだ。

 ある日の昼のことだった。そろそろ午前の診察時間を終えて休憩になるというとき、Yさんが受付カウンターで作業をしていると、すっと自動ドアが開いた。顔を上げると、玄関口には背丈一七〇センチくらいほどの男が立っていた。黒いスーツを着てぴしっとネクタイを締めているが、その顔に違和感がある。

 まるで市松人形のような顔をしている。目は小粒で、凹凸のあまりないなだらかな頬の隆起。唇は化粧をしたように真っ赤に染められて、それは白粉を塗ったかのような白皙とした肌の上にぽつんと乗っているのである。

 男は身体を動かさず平行移動するようにスーッと受付まで音もなく移動すると、表情の変わらない顔がYさんの顔の目の前まで近づいてくる。

「わ!」

 思わず大きな声を出してしまったYさんは視線を逸らすと、次の瞬間には男の姿はなかった。そこはなんでもないいつもどおりの昼の風景。そっと風が流れ、自分のほかに誰もいない待合室の自動ドアがゆっくりと閉まっていった。


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