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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第九夜 帰宅者

 木曜日の昼下がりである。Iさんは久しぶりに有給を取って、家のリビングでくつろいでいた。Iさんには奥さんと、小学校高学年の娘がひとりいるが、平日の日中にひとりで家にいることなんてしばらくなかった。今日は日頃の仕事の疲れを癒すべく、気持ちよく晴れた陽の光を浴びながら昼食を食べ、レンタルビデオ店で借りた映画をのんびりと見て満喫していた。

 その時、玄関の鍵が開き、扉が開く音がした。娘が帰ってくるにはまだはやい時間である。仕事に行っている妻が忘れものでもして帰ってきたのだろうか?

「おかえり」

 Iさんはリビングからそう投げかけてみたが返事はない。しばしの間玄関は沈黙したままである。誰が帰ってきたのだろう? まさか泥棒が鍵をこじ開けて入ってきたのだろうか? 急に不安になったIさんはおそるおそる玄関のほうへ忍び寄ると、玄関には誰もいなかった。誰かが返ってきた形跡はないし、開いたと思っていた鍵もかかったままだった。

「寝ぼけているのか?」

 Iさんは不思議に思いながらリビングに戻った。


 それから夕方になってIさんの娘が帰宅した。鍵が開いた時は一瞬ヒヤッとしたが、Iさんの「おかえり」を待たずして元気な娘の「ただいま」の声が返ってきたことに心底ほっとした。

 ランドセルを抱えたIさんの娘はリビングに入り、首をかしげながら「ねえ」と問いかけた。

「玄関にある、びしょびしょに濡れた赤いヒールって誰の?」

 Iさんが玄関を確認すると、確かに水に濡れた真っ赤なヒールが、つま先を外側にしてぽつんと置かれていた。

 今日一日雨なんて降っていない。それにこのヒールは妻が履いているものではないし、初めて見るものだ。

 Iさんが昼に「おかえり」と迎えたのは一体誰だったのだろう?

 夜、Iさんの妻が帰ってきてヒールのことを尋ねたが、一切身に覚えがないという。

 気味が悪くなってそのヒールはその日のうちに処分したが、玄関の水濡れの跡はしばらく消えなかった。

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