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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第八十五夜 デモテープ

 Fさんは大学を卒業して就職するにあたり、実家から引っ越すことになった。初めての一人暮らしになるということもあり期待と不安が入り混じるなか、新居に持っていく荷物をひとつひとつ仕訳けていた。

 思いのほか部屋の荷物が多い。いままであまり整理整頓してこなかったツケがまわってきたらしい。押し入れを掘り進めば掘り進むほどいろいろなものが出てくる。

「あ、これ……」

 Fさんが手に取ったのは一個のカセットテープ。高校生の時に友人たちと一緒にバンドを組んでいたときのものだ。ラベルには『デモ』とだけ書かれていた。

 懐かしい気分になったFさんはそのテープをカセットデッキに入れ込んだ。これは確か初めて自分たちで作詞作曲したときに録音したものだ。めちゃくちゃ下手で全然人気なかったけど、良い思い出だったな。あいつがまだ生きていれば――

 Fさんの組んでいたバンドのボーカルのYさん。彼が最初にバンドを組もうと持ち掛けてきたのがスタートだった。当時世間的にもバンドブームで、人気アーティストのコピーバンドが流行る中、Fさんたちは自分たちのオリジナル曲を作ろうということになった。それもすべてYさんの提案だった。

 しかし、このデモテープが完成してすぐのことだった。Yさんは通学途中で不慮の事故に遭いこの世を去った。結局せっかく出来た新曲も披露できないままバンドは解散となった。

「無念だったよな。せめて一回くらいはライブハウスを借りて演りたかったよな」

 Fさんがカセットデッキの再生ボタンを押す。テープが回って、ぷつぷつとしたノイズが聞こえだす。

 しかし、いつまで経っても曲が聞こえてこない。壊れたか? そう思っていると、急に男の声が聞こえてきた。

「もっと生きたかった」

 そう言い終わるやいなやぷつりと音は飛び、テープに収録されていた曲が途中から再生され出した。

 Fさんは耳を疑った。もしかして、Yなのか?

 それを確かめようとテープを巻き戻して初めから再生した。

 しかし、冒頭から曲はスタートして、聞こえてくるのはYさんの歌声だ。さっき聞いた声はもうどこにも残っていなかった。


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