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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第八十夜 地蔵の首

 Uさんが小学生の頃、毎日使っていた通学路にはちょっとした林道があり、その中腹には五体の地蔵が並んでいた。そこは日中であれば木漏れ日に緑がよく映え、きちんと舗装もされている道なので、怖いと感じたことは一度もない。散歩道として利用するひとも多く、通学するときには誰かとすれ違うことも少なくなかった。誰かが掃除をしているのだろうか、地蔵の状態はとても大切に扱われているような様子だった。

 この地蔵はずっと昔からそこにあるのだという。祖母が生まれた時から変わらずにそこで整然として並んでいたというから、ずいぶん歴史があるのだろう。同じ背丈の、同じ顔が一列に並んでいるのをみると、なんだか厳かな気持ちになって自然と背筋が伸びる。その土地を見守ってきた威風が目に見えるような気がした。

 ある朝のこと。その道をひとりで歩いていると、五体あるうちのひとつの首がない。何か刃物でスパッと切られたかのような綺麗な切り口である。

「罰当たりなことをするひともいるんだな」

 Uさんはなんだか可哀そうな気持ちになって、その首のない地蔵に手を合わせて学校に向かった。

 その日、学校を終えて家に帰ったUさんは両親にそのことを話してみると、両親の顔がパッと青ざめた。まるで電気のスイッチを切り替えたかのように、それまでの明るい表情が一瞬のうちに消え失せたのである。まずいことを言ったかもしれない……子供ながらに異様な空気を察すると、両親は顔を見合わせて外行きの服に着替えだした。そして何も説明することなくUさんを車に連れ込み、そのままどこへ行くかも知らされないまま発進した。

「ねえ、どうしたの? どこ行くの?」

 少年の心に不安が膨らむ。決して明るくない街灯が車の窓越しに次々と追い抜かれていく。

「いいから、静かにしてなさい」

 車内は重苦しく沈黙したまま、どこだかわからない深い闇の中をひたすら走らせていった。

 一時間ほどして、ようやくたどり着いたのは見知らぬお寺だった。ぽつんと小さな明かりのともった本堂に向かって連れられて行く。ジャリ、ジャリ、と足元の砂利を踏む音だけが聞こえてくる。Uさんはその時の両親の必死な表情を鮮明に覚えている。そして、言い知れぬ恐怖と……

 Uさんはそれからのことはあまり覚えていないという。そこで何が起きたのか、どれくらいそこにいたのか、それからどうやって帰ってきたのかさえ、頭の中の記憶をたどってみてもわずかな情報さえも残されていなかった。

 Uさんの目が覚めた時にはもう朝だった。身体には全く異常はないし、どんな変化も見られない。まるで何事もなかったかのような静かな朝。しかし、両親は当たり前のようにそこにいるが、昨夜のことについては何も言う素振りさえも見せない。

 しかし、あまりにも異様な出来事だったので、Uさんはたまらず両親に訊ねるとこう言った。

「悪い夢でも見たんじゃないか? そんなことはなかったぞ。なあ?」

「そうよ、きっと昨日は疲れてたのよ」

 しかし、Uさんはそれが真実ではないことはなんとなくわかった。何か隠していることがあるのだろう。それを知るべきなのかどうかはわからないけれど……

その日の通学時には、地蔵の首はしっかりと繋がっていた。


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