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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第七十九夜 隙間

 ある夜、Kさんは恐ろしい夢を見た。

 深夜の自宅、その夢というのは、ふと目が覚めるところから始まる。暗い寝室。妻と二人で住んでいるその家は、しんと静まり返っている。Kさんが水でも飲もうと寝室から出ると、誰もいないはずの洗面所のほうからシャワーが流れ落ちる音がする。不思議に思っていると、洗面台の蛇口が急に開いて水が勢いよく流れだした。ザーザー。激しい水流の音に、Kさんは恐ろしくなってどたどたと寝室に入り、布団をかぶってぶるぶる震えていた。閉じた扉の向こうからかすかに水の流れる音がする。すると、その音がより鮮明に聞こえだした。Kさんが恐る恐る音の聞こえる方向を見ると、閉じていたはずの扉が少し開いていた。そこから覗いていたのは真っ黒い影――


 そこでKさんは夢から覚めた。深夜、まだ部屋の中は暗い。心臓が激しく脈動している。現実を舞台にした夢は妙にリアルだから感じる恐怖もひとしおだ。

 Kさんは夢だったことに安堵していると、寝室の扉が少しだけ開いているのを見つけた。普段、必ず完全に閉めているはずなのに。

 それがあまりに奇妙だったため、翌朝、隣の部屋で寝ていた妻に訊いてみた。

「昨日の夜、俺の部屋の扉開けた?」

 すると妻は怒ったような表情で答えた。

「え? なんでそんなことする必要があるのよ。ねえ、そんなことより、朝起きたら洗面所の水道出しっぱなしだったんだけど! どうせ夜寝ぼけて扉も開けっ放しにしたのを忘れたんでしょ?」

「水道が……?」

「すごい勢いだったんだから。水道代もったいないから気を付けてよ」

 昨夜目が覚めた時には水の音なんて聞こえなかったはずだ。

夢と一致した出来事に、Kさんはひとり戦慄した。もしかすると、あの夜、寝ているKさんをあの黒い影が覗いていたのだとしたら……?


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