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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第七十三夜 異界の闇

 異世界への扉は普段我々が何気なく使っている場所にあるのかもしれない。

 Uさんは自身が体験したそんな異世界への繋がりについてこんな話をしてくれた。


 ある夜、当時付き合っていた彼女の家に泊まり込んでいたUさんは、小腹が空いたので近くのコンビニまで行くことにした。

 アパートの扉を開けると、目の前にある街灯が消えている。電球が切れてしまったのか、辺りは闇に包まれている。まあ、そんなこともあるだろうと、Uさんは気にせずにコンビニまで歩いて行った。

 しかし、歩けば歩くほど、徐々に異変が侵食していく。

「なにかがおかしい」

 見渡せば、その異変が目に付くようにわかってくる。

 街から明かりという明かりが消えてしまっているのである。自販機の照明も、住宅から漏れる明かりも、何一つ見えてこなかった。道路に出ても車ひとつ通っていない。瞬時に大規模な停電になってしまったのかもしれないが、それにしても、街は生きている感覚を薄めてしまうほど静かである。まるで異世界に迷い込んでしまったかのよう……

 なんだか一瞬にして世界が死んでしまったような空気感に、Uさんは不安になり、コンビニにたどり着く前にひとまず彼女のいるアパートに戻ることにした。

 玄関のドアを開けると、パッと視界が明るくなる。部屋の電気がやけに眩しい。

「どうしたの? 忘れ物?」

 彼女は何も事もなかったかのような顔をしている。Uさんはもう一度玄関のドアを開けて外に出ると、さっき消えていたはずの街灯は炯々と夜を照らしていた。街も普段通りに明かりを取り戻しているし、かすかに車が走る音も聞こえてくる。

 いったい何だったんだろう? Uさんは今あった不思議な体験を彼女に話したが、彼女をまったく信じるような素振りを見せずに笑ってこう言った。

「何言ってんの? だってさっきUが玄関出てから五秒も経たずに戻ってきたんじゃん。絶対財布でも忘れたんでしょ?」

 Uさんは恐ろしくなって、それきり彼女の家に泊まり込むのをやめたという。


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