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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第七十一夜 挨拶

 また、そのBさんの奥さんはこんな不思議な体験をしたことがあるという。

 結婚の報告をするために、ふたりで初めてBさんの実家に行った時のことである。

 身を固める決断をしたことを父は喜んでいた。子育ての右も左もわからないのに、男手ひとつで苦労して育てた息子がようやく一家の主となる。感慨深いものがあったのだろう。結婚することを電話で連絡した時、初めて父のすすり泣く声を聞いた。

緊張している奥さんと並んで玄関に入ると、笑顔の父親が迎えてくれた。挨拶は始終和やかに過ごすことができた。

「そうだ、母さんにも報告しなさい。きっと喜ぶだろう」

 そう父に促されて、ふたりは仏間へ行った。そこにある仏壇に置かれている母の写真を目の当たりにして、奥さんは急にその場に泣き崩れた。

「いったいどうしたんだ?」

 男二人がおろおろと戸惑っていると、奥さんは涙ながらにそのわけを話し出した。

「私、Bさんとお付き合いし始めた時にたびたび夢を見ていたんです。見知らぬ女性が枕元に座って話しかけてくる夢です。でも何を話しているかはまったくわかりませんでした。不思議な感覚でした。全く見たことがないひとなのに、どこか安心するような優しさに包まれた気がするんです。そのひとは笑顔でひとしきり口を動かした後に、ゆっくりとお辞儀をして、そこで夢から覚めるんです。怖いという感覚はありませんでした。なぜだか、他人という感じがしなかったものですから」

 そして奥さんは仏壇の写真を指した。

「それがお義母さまだったんですね。今なら夢で何と言っていたのかわかるような気がします」

 それを聞いたBさんの父は、目を赤くして鼻をすすりながら「向こうからちゃんと見ていてくれていたんだな」としみじみと呟いた。

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