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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第七夜 急ぐ男

 Rさんは久しぶりの都内への出張を終え、終電に乗ってようやく最寄り駅に到着した。そこから自家用車に乗り換えて家までしばらくのドライブだ。Rさんはくたくたに疲れ果てていたため、早く帰宅してぐっすり眠りたかったが、今朝がた車を停めた立体駐車場が珍しく満車だったためいつもとは違う、駅から少し遠いところだったことを思いだし愕然とした。

「どうしてこんなに疲れているところにまた歩かされるかねえ」

 Rさんは手提げ鞄に重みを感じながら、ネクタイを少し緩め、深夜一時過ぎの駅前を歩き出した。

 その立体駐車場は築何年だかは知らないが、年季の入った古めかしい外観をしていて、事実壁には至る所に汚れやひび割れが見受けられる。一応七階まであるが一階当たりの駐車スペースは狭く数多くないため、それほどのキャパシティも持っていない。多少駐車料金が安いことだけが唯一の取り柄であろう。

 Rさんは無人の改札口の脇を抜け、エレベーターを目指す。階段なんて使う体力はとうに残っていない。エレベーターのボタンを押し、六階で停止していたコンベアが数字とともに下降していく。

 扉が開くと、ひとりのスーツを着た男性が飛び出してきた。

「わっ!」思わず声を上げる。

「すみません! 急いでいるもので」

 その男は頭を下げて謝罪したが、そのまま走って行ってしまった。

「こんな時間にあんなに急いで何の用だ?」

 そう思いながらもエレベーターに乗り、車の泊めてある六階のボタンを押した。

 十数秒して六階に到着し、扉が開くと、またさっきの男が飛び出すように入り込んできた。

「わっ!」

「すみません! 急いでいるもので」

 Rさんはすれ違うように外に出ると、男を乗せたエレベーターは静かに扉を閉じた。

「いったいなんだよ。忘れものでもしたのか? さっきすれ違ったのに……」

 そう考えて不可解なことに気付いた。ここは六階である。さっきの男が仮に階段でここまで戻ったとしても、到底間に合うような時間ではない。それに、先ほど閉まったエレベーターは下にも上にも動かず、沈黙したままである。

「そういえば、俺が下でボタンを押す前からエレベーターは六階で停止したままだったな……」

 Rさんは言い知れぬ恐怖を感じ、急いで車に飛び乗ると立体駐車場を急いで出た。

 それっきりRさんはその立体駐車場を利用することはなくなった。今でも思い出すたびに考える。あの男はいまだに何かに急いでいるのだろうか?


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