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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第六十四夜 肉まん

 Oさんは仕事が終わり、帰路についていた。最寄り駅を下りて自宅まで徒歩十五分というところ。冬の夜道は暗くて寒く、凍えるような風をその身に受けながらいそいそと足を速める。

 賑やかしい駅前を通り抜け、徐々に閑静な住宅街へ入っていく。すると、かすかにいい匂いが鼻腔をかすめた。温かみがあって食欲を掻き立てるような、どうやらそんな美味しそうな香りがするのである。ああ、肉まんだ。Oさんはそう感じとった。しかし、その匂いがどこかやってきているのかはわからなかった。周りにはコンビニは一軒もないし、食堂らしき店も見当たらない。どこかの家で肉まんを作っているのだろうか? と思いめぐらしながら歩いていたところ――

 そこからOさんの記憶はすっぽり抜けてしまったという。次にOさんが覚えていることと言えば、寒空の下、どこだかわからないコンビニの前で両手いっぱいの肉まんを抱えて立っている自分である。その数は三十個。到底一人で食べきれる量ではない。

 最もOさんを不思議がらせたことと言えば、そのコンビニがOさんの自宅から約三十キロほど遠いコンビニだったということである。

「全く知らない土地ですよ? 駅前にだってコンビニはあるのに、なんでこんな遠いとこにいるんだろうって思いましたよ。そこから両手いっぱいの肉まんを抱えて、家に帰るのはかなり骨が折れました。別に肉まんなんて好物でもなんでもないんですけどね」


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