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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第六十夜 焼け跡

 とある正月のこと。その冬の夜はかなり冷え込んでいて、空気も乾燥していた。

 Eさんが焦げ臭さを感じて眠りから覚め、火事に気付いた時にはもう遅かった。隣家の窓からはごうごうとした炎が酸素を求めて溢れ出ている。火はEさんの家の壁に燃え移り、黒い煙が通気口を伝って部屋まで流れ込んでいる。赤黒い炎熱はすぐそこまで迫ってきていた。

「これはまずい!」

 Eさんは最低限の荷物を取って外へ出ると、すでに家の屋根まで火が燃え移っていた。念願叶って買った建売の一戸建て。築三十年くらいだがまだまだ綺麗な家だったのに……みるみる火に包まれていく我が家を呆然と見ながら、Eさんは喪失感と炎の熱を感じていた。

 消防が駆けつけてようやく火が消し止められたのは夜が明けたころだった。火の原因は隣家の消し忘れたストーブ。隣人も幸い火が回る前に脱出できたため、軽い火傷で済んだという。しかし、延焼したのはEさんの家宅を含めて近隣の三軒。空気が乾燥していたために燃え広がるスピードも速かった。火災保険が降りるとはいえ、隣人の抱える負債を考えるとぞっとしてしまう。

 しかし、Eさんが最もぞっとしたのはそこではなかった。

 消防が焼け跡を調査していたところ、奇妙なことが判明した。

「すみません、もう一度お聞きしますが、本当にEさんのお宅はおひとりで住まわれていたんですよね?」

「ええ。私は独身ですし、親はいますけど住んでいるのはこの家ではありませんので」

「本当に、本当ですか?」

 消防職員は何度も確認を取ってきた。しかし、事実なものは事実にほかならない。

「いったい何があったんです?」

 Eさんがそう訊くと、消防職員は混乱しながらもこう答えた。

「いや……どういうわけか、Eさんのお宅の、ちょうど台所のあたりからひとりの遺体が見つかったんですよ。しかし、火傷で損傷がひどいために性別すら判別できないのですが、とりあえず調査する必要がありますのでご協力いただきます」


 結局、その遺体の身元は判明しなかった。しかしDNA鑑定の結果。五十代の男性であることがわかったが、Eさんにはまったく見覚えがない。警察の捜査は前住人にも及んだが結論には至らず、事件はいまだに解明されないままである。


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