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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第五十四夜 無数の手

 その心霊写真について、ひとつこんな話がある。

 例の住職の話によれば、持ち主の女性は写真の中に、襖から無数の手が見えるということだった。それが少しずつ近づいているとも。私たちが初め確認した時にはそのようなものは確認できなかったが、もしかすると時間の経過で変化するような代物なのではないか? そう思い、『月刊フォボフィリア』の編集部で写真を経過観察することになった。

 結果としてそれは失敗に終わったわけであるが、ひとつだけ気掛かりなことが起きた。それは編集部のYさんという女の子が四日目の観察から参加するのをやめたのである。

「どうかした?」

「いえ、でも」Yさんは震える声で声を漏らす。「なんだかあの写真を見るようになってからだんだん手が重くなってきたんですよね。おもりをつけているようなそんな感覚がして気持ち悪いんです。すみません」

 結局、彼女抜きで写真の経過観察をして二週間が経っても何の変化もないので、私たちもこれ以上の観察をやめることにした。重要資料のファイルに入れてキャビネットにしまい込んだ。

 ある朝のこと、私が編集部に足を運ぶとYさんは、キャビネットからあの心霊写真を取り出してじっと見ているのである。あれだけ気味悪がっていたのに、こんなにまじまじと見ているなんて……と不審に思って彼女に話しかけた。

「その写真、見て大丈夫なの?」

 返答はない。静かに写真を見つめて動かない。

「ねえYさん?」

「安城さんおはようございますー。今日は早いですねー」

 その声がする方を振り返るとYさんがいる。いつもの陽気な声は彼女そのものだ。では、ここにいるのは……?

 写真を見ていたYさんは跡形もなく消えていた。

「ちょっと、その写真また見てたんですかー? 気味が悪いからはやくしまってくださいよー」

 私は写真を手に取ってみる。そこには初めて見たときと変わらない部屋の風景である。なんにも変化はない。しかし、もしかすると―—

「Yさん、もしかして写真の中に手が見えてる?」

 私がそう言うと、彼女はさっきまで笑っていた顔をすっと無表情に変えた。

「そんなわけないじゃないですか」


 彼女が実際に何かを見つけていたのかどうかはついに聞きだすことができなかった。それからYさんはまもなく転属となり、『月刊フォボフィリア』からは手を引くこととなった。今でも彼女は別の編集部で健在ではあるが、やはりあの時の話を聞く気にはなれない。


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