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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第五十二夜 埋もれていたもの

 Bさんの父親が亡くなった。九十五歳、老衰だった。病院で家族とともに最期を看取ることができたのは不幸中の幸いだと思う。なにせ、父は頑なに家から離れることを嫌がっていたから。「父が倒れている」とヘルパーさんから連絡を受けて病院に緊急入院させた。意識が戻ってからも父は「家に帰る!」と騒いで手が付けられなかった。

 しかし、家にはもう誰もいない。Bさんが生まれるずっと昔からある古家だ。先祖代々改築しながら保ってきた立派な一軒家だが、住む人がいないんじゃそのまま残しておいても仕方がない。Bさんは父の家を借家として貸し出すことにした。

 しかし、借り手が見つかっても一か月経たずに住人が出て行ってしまう。これには不動産屋も困惑の表情だった。

「その多くの理由というのがですね……誰もいないのに家から女の泣く声が聞こえるというんですよ」

「え? 私もあの家には住んでいた時はありましたが、そんな声は一つだって聞いたことありませんよ。何かの間違いなのでは?」

「ええ、非常に信じがたい話なんですがね。ただ三組もそんなことを口々に言うものですから……正直なところあの家は商品として扱うのは厳しいかと」

 そう言われてしまっては仕方がない。使わずして無駄に税を取られるだけというのもなんだし、思い切って取り壊し、そこを駐車場にすることにした。

 思い出のある生家ではあるが、いつまでも感傷に浸っているわけにもいかず、現実的なBさんはいそいそと荷物をまとめると、すぐさま工事が着手された。重機が入り大きな音とともに壁や柱が撤去されていく。作業はおおむね順調だった。

 施工業者から連絡が入ったのはそれから数日後のこと。

「Bさんのお宅の床下を掘り起こしていたところなんですが、どうやら地下室のような人工の空間がありまして、私どもも施工にあたって初耳なものですから、一度確認していただけませんか?」

 地下室? そんなこと一度だって聞いたことがなかった。第一地下に入る扉や階段なんて見たことがない。Bさんは不思議に思いながら家に向かうことにした。

「ここなんですけど」

 現場監督が指す場所を確認してみると、確かに木の柱が四本立てられていて、それを囲うように木板が壁のように打ち付けられている。きっとショベルで天井をぶち抜いたのだろう、空洞の中は土でほとんど埋まってしまっているが、ひとが一人入れるほどの広さは確認できた。

「こんなの私も聞いていないですよ」

「仮にこれが地下室として作られたものだとしても、出入口がどうやら見つからないんですよね。普通だったらあり得ない。どうしましょうか……?」

「少し調べてみます。中に入っても?」

 ショベルを停止させて作業員の方々には休憩に入ってもらった。Bさんと現場監督はライトを持ってその空洞に降りていく。ずんと空気が重くなる。

「何もなければ取り壊しても構わないんですけど、ほら、なにか埋蔵金でもあれば、なんて」

 落下した土を少し掘ると、地面に突き当たった。畳。むき出した井草が半畳ほど敷き詰められていた。

「やっぱり何かの部屋だったんでしょうか」

 現場監督がさらに土を掘り起こす。すると、白い棒状のものが出土した。

「うわああああ!」

 古家の跡地に男二人の絶叫がけたたましく響いた。


 Bさんの生家の地下からは一本の大腿骨が見つかった。DNA鑑定によると江戸時代あたりの成人の女性のものだということがわかった。しかし、どうして誰も行き着くことのできない地下に部屋が作られ、人骨が置かれていたのかはもはや誰も知る者がいない。

「もしかしたら親父は何か知っていたのかもしれませんね。今となっては遅いですが」

 Bさんはそのまま跡地を駐車場にすることにしたが、売り上げはさっぱりだという。


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