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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第五十夜 乗客

 タクシー業界の間で囁かれている噂がある。山梨県の某所をタクシーで通りがかると、花柄の白いワンピースを着た若い女が手を挙げて立っている。しかし、その客を車には乗せてはいけないという。


 タクシードライバーのNさんはその日なかなかお客さんがつかなかった。歩合制のためひとりでも多くの乗客を運ばなければそれだけ収入に響いてしまう。当時借金を抱えていたNさんはどうにか客を乗せなければならなかった。

 その女が出るという某所に差し掛かった時である。噂通り、花柄の白いワンピースをきた髪の長い女が手を挙げている。真昼のこと、もしその噂が流行っていないとすれば確かに客だと思ってつい車を停めてしまいそうなほど違和感がない。しかし、Nさんはその時、どうしてだかその女の顔を確認することができなかった。髪や衣服に隠れているわけではないのにぼんやりとした影で塗りつぶされているような、そんな風に見えたという。

 しかし、どうしてもお金が欲しいNさんは欲に駆られて車を停めてしまった。心霊の類を信用してなかったこともあり、きっと他のドライバーが客を盗られたくないために流布した悪質な噂だろうと思っていた。

 女はすっと後部座席に座ると、青山まで、と言った。

 百キロを超える上客だ! しかし、Nさんは女がなにひとつ荷物を持っていないことに気付き、料金を踏み倒そうとしているのではないかと疑った。

「お客さん、ここから青山までだと……料金はおそらく五万円近くになってしまうんですけど、持ち合わせは大丈夫ですか?」

 すると、女は手を差し出した。そこにはきっかりと五枚の一万円札が乗せられている。

「失礼いたしました。それでは出発いたします」

 なんだ、ちょっと陰気くさいがちゃんとした客じゃないか。Nさんはようやく稼げるとなって上機嫌に車を走らせた。

 ルームミラーでちらちらと確認しても、女は俯いてばかりでほとんど動かない。しかし、それだけで特別何か不可解なことが起きるわけでもない。

 Nさんのタクシーはとうとう何事もなく青山まで到着した。

「それで、青山のどちらまで?」

 すると、女は小さな声で、ここで、と答える。Nさんは路肩に車を停めて料金を受けって女はお釣りも受け取らずに下車した。

「なに、結局何事も起こらねえじゃねえか。釣りの分も儲けたし、それに長距離を走ってくれる客ならば俺達にとっては都合がいい」

 と、先ほど女からもらった五万円をふとみると、それは紙幣ではなく泥のついた古びたお札だった。

 騙された! そう思ってすぐさま女を追いかけたがもうその姿は消えていた。結局無賃乗車で百キロ近く走らされたというわけである。


 それからNさんはその噂を広める側の人間になったという。


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