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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第四十四夜 団体客

 中華料理屋を営むYさんの話である。

 ある日、いつものように店を営業していると、ひとりのサラリーマン風の男性が来店した。彼は鼠色のスーツを着て、青いネクタイをしていた。堀の深い神経質そうな顔つきだった。

「すみません。いまから団体で入れますか?」と、開口一番にそう言うのである。

「予約はしてないということですよね?」

「ええ、すみません」

 Yさんは突然の団体客に困惑した。というのも、その人数は三十人だという。幸いまだ来客はないし、これから予約の客もない。今日のところは貸し切りにすれば受け入れられないことはない……ここのところ不景気で客足が少なかったことが悩みだったYさんにとっては、突然ではあるが嬉しい出来事でもあった。

「わかりました。大丈夫ですよ」

 すると、入り口からはぞろぞろと人が入ってくる。ドレスを着た若い女性、Tシャツに短パンを着ている子供、上半身が裸のおじいさんまでいる。一体何の集まりなのかが全く分からない老若男女がぞろぞろと店の座敷を埋めていく。

「おい、今日は忙しくなるぞ!」

 Yさんは厨房で張り切って料理を作った。ホールからはどんどんと注文が入ってくる。作っても作っても中華鍋を振るう手は休まらない。がやがやと騒ぎながら飲み食いする奇妙な団体客をひたすらもてなし続けた。

 一時間ほどしたころ、さっきまで聞こえていた騒ぎ声が消えていることに気付いた。

 すると、ホールスタッフが血相抱えて厨房へ飛び込んできた。

「店長! 大変です。ちょっと来てください!」

 その顔があんまり必死なのでYさんがホールに出てみると、先ほどまで嵐のように騒いでいた団体客は誰一人としていなかった。食い散らかされた空の皿が雑多に並んでいるだけである。

「食い逃げか!?」

「そんな、あんなに大人数だったんですよ? それがほんの少し目を離したくらいで気づかれずにパッと消えてしまえるなんて考えられませんよ」

「と、とにかく警察だ」

 しかし、警察を呼んでみたところでこの不可思議な事件をとうてい上手く説明することができなかった。その場にいたスタッフ全員が気づかなかったのである。

「そういえば」Yさんには不思議に思う点がひとつあった。「あいつらが入店した時、動物のようなきつい臭いがぷんと一瞬したんだよなあ」

 きっと狐にでも化かされたんでしょうね、とYさんは笑いながら話してくれた。


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