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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第四十三夜 警告

 稲見さんからノートを受け取って、私は彼女の行方について独自に調査を進めていた。すると、私の仕事用のメールアドレスに一通のメールが届いた。

『稲見李鳳の件について』

 そんな件名を見て思わず食いつく。どうやら差出人は彼女についての何かしらの情報を掴んでいるらしい。

 差出人にコンタクトを要求すると、相手は日時と場所を指定してきた。そこはありふれた普通の喫茶店である。私はどんな情報を持っているのかと期待と不安を抱えながらその場所に向かった。


 ここで出会った男性のことを仮にAさんと呼称する。彼については極力情報を残さないということを厳重に約束したうえでの取材となったため、彼についての記述は男性であるという情報にのみ止めておくことにする。取材用のボイスレコーダーやその場でメモをとることも禁止されたため、これからの会話は私の記憶によるものであるため、かいつまんで記述する。


「稲見さんについての情報を探しているそうですね」

「ええ」私は彼の問いに答える。「何か知っているんですか?」

「単刀直入に言いますが、今日僕があなたに言っておきたいことは警告です。これ以上彼女について詮索することはやめなさい。それはあなたのためでもあるんです」

「どういうことですか?」

「そういうことですよ。あなたがいま入り込もうとしているそれはあなたが思っているよりもずっと深いんです。どうなるかは保障できません」

「話が見えてこないですね。稲見さんはいまどこにいるんです?」

「教えられません」

「しかし、あなたは私に稲見さんの行方を捜索することを拒んでいますね。なぜですか?」

「危険だからですよ。もしあなたがこれ以上〝こちら側″に踏み込んでくるということであれば、こちらとしても安全が保障できない、ということです」

「脅しですか? やはり稲見さんは何かしらの犯罪組織に……」

「そんなものじゃありませんよ」

 私はAさんの軽い口ぶりに腹が立って思わずテーブルをたたいてしまった。

「じゃあ、彼女はいったいどこに行ったんですか!?」

 そう叫ぶと、喫茶店内はしんと静まり返った。しかしAさんは動じない。テーブルの上で私の頼んだコーヒーだけがぐらぐらと波打っていた。

「……警告はしましたよ。それでもこの先彼女のことを調べ続けるというのであればご自由に。ただ身の上の安全については、我々は一切感知しませんので」

「我々……? あなたたちは一体?」

「あなたもあの目に選ばれたんでしょう? それが意味するものが何か、直にわかる」

 そう言って、Aさんはすうっと消えてしまった。

 私はその出来事に困惑していると、喫茶店の店員が申し訳なさそうな顔で私のもとに駆け寄ってきた。

「あの、お客様すみません。ほかのお客様もおりますのでひとりで大声をあげたりするのはお控えいただけますか?」

 ひとり……私はいったい誰と話していたのだろうか? 夢でも見ていたのだろうかと携帯電話を点けてメールを確認したが、削除していないはずなのにAさんからのメールは残っていなかった。

「あの目に選ばれたんでしょう?」

 彼の言うその言葉が頭から離れない。どうして彼がそれを知っているのか、そしてどうして彼らが稲見さんの行方について詮索することを拒むのか、結局なにもわからないままだった。しかし、Aさんの言っていたようにこれ以上踏み込むことは危険を伴う、それは本当らしく聞こえた。


 稲見さんについては、私がこの本を編集している時点では依然として行方不明のままである。


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