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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第四十夜 稲見氏について

 これからお話しするのは私の友人である霊媒師の稲見李鳳いなみ りほさんにまつわるものである。

 まずは稲見さんについて少し記しておきたい。


 稲見さんは東京都墨田区両国で生を受けた。私が出会ったときは彼女が当時二十五歳の頃、顔立ちはキリっとした理知的な凛々しさを漂わせているが、口ぶりは穏やかで笑顔の似合う優しい人物だった。彼女は都内で霊媒師として活動していた。物心ついたころからごく自然に幽霊が見えていたという。自分の霊能力に気付いた時から、霊魂の無念や怒りや怨念を鎮めることこそが使命であると感じたのだ。彼女のもとへ相談しに来るひとも数多く、たくさんの除霊活動を行ってきたという。

 彼女とは、私が担当している雑誌『月刊フォボフィリア』の取材で出会った。一緒にその除霊活動を見学させてもらったり、仕事以外でも様々なお話を聞かせてもらったりしていた。霊媒師と聞くと厳かで近寄りがたいイメージをしてしまうが、彼女の場合は友達に相談するというような感覚で話してしまう。そんな親しみやすい人柄の持ち主だった。

「幽霊と対峙するとなった時、稲見さんは怖いって感じることはない?」

 ある時、彼女に訊いてみたことがある。

「安城(私)さんは幽霊を見たことはありますか?」

「ううん、一度も。こういうオカルトな仕事していてもさっぱりね」

「そうですか。幽霊というと、やはり皆さん怖いって印象を持つんです。確かに怨念を持っているような幽霊は危険が伴います。取り込まれてしまえばあの世へ連れていかれてしまうことだってありますから。でも、もともとは私たちと同じようにかつてはこの星で生まれ、呼吸し、たくさんの喜びと幸せと、怒りと苦悩を持って生きていたはずなんです。私たちと同じです。分かり合えないはずがないんです。だから、私は恐れません。きちんと対話して、向き合って、そうして成仏してもらうのが私の流儀、というものですかね」

「なるほどね。すごい素敵なやり方だと思うよ。そういえばこの前、〝霊能力を持ったことに気付いてから彼らを救ってあげることは自分の使命だ″って言ってたよね。それにはとてつもない勇気のいる決断だと思う。稲見さんはその決断に後悔を抱いたことはない?」

 彼女はそれまで笑顔だった表情を一瞬曇らせた。そして再び優しそうな笑顔に戻ってこう答えた。

「誰かがやるしかないんですよ。それが私だったってだけで」

 その声には抑揚がなかった。


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