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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第三十九夜 並走

 深夜にランニングをするのが日課だというUさんの話。

 走り慣れたいつものコースを走っていると、ふと道路の真ん中、靴が左右揃って置いてあるのが見えた。しかし、その道路というのは街灯がほとんどない暗い道である。手元には小さなペンライトがあるが、その光が照らしだせる範囲はせいぜい二メートルが限界だ。しかし、Uさんは十メートルも先にある靴をはっきり認識することができたという。

 Uさんはゆっくりしたスピードでその靴を通り過ぎていく。長く使い古したようにくたびれている。靴紐はほどけ、少し泥で汚れているスニーカーだ。誰かが捨てていったものだろうか。昨夜もこの道を走ったが、その時にはこんな靴は見当たらなかった。

 通り過ぎてしばらく経っても、どうしてだかその靴のことが気掛かりになって仕方がない。すると背後から地面を蹴って靴底が跳ねるような音がする。遠くの方から徐々に近づいてくるようなスピード感。

 タッタッタッタッタ……

 足音は次第にUさんのすぐそばまで近づいた。真後ろ! そう感じたが、そこに人がいる気配はない。服の擦れる音や息遣いというものが全く聞こえてこないのである。

 すると。視界の端に何かが見える。

 靴だ。さっき見た靴がUさんと並走しているのである。

 Uさんは恐ろしくなって走るペースを一気に加速させたが、靴もそれに合わせてペースアップしていく。普段行かない道に折れても靴は後をついてくる。逃げられない。無我夢中で走っていると、家垣で囲まれている見通しの悪い交差点に差し掛かった。その瞬間!

 バン!

 靴は大きな音を立てて空中に放り出された。その音が一体何の音だったのかはわからないが、何かしらの物体が強く衝突するような音だった。靴はそのまま真夜中の闇の中に吸い込まれるように消えていった。それを見てUさんはようやく立ち止まることができたのである。

 あたりを見渡すと、交差点の電柱の根元には花束と缶ジュースが置いてあったという。

 きっとここの交差点で事故に遭って亡くなったランナーの靴だったのだろう。この世を去っても走ることに執着している。そう思うと、Uさんは恐れよりも切なさの感情が込み上げてきて、そっと手を合わせて哀悼した。

 それきりUさんはその靴を見ることはなかった。


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