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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第三十四夜 踊る者

 Eさんが住む地区では有名な奇人がいた。彼はどういうわけか毎日踊っているのだという。なんの踊りかはわからない。しかし、きちんとした振り付けがあるわけではなく、ひたすら腕を振り回したり、ぴょんぴょん跳ねているような規則性のないバタバタとした動きだ。リズム感もなければ、その顔には表情もない。彼は自宅の庭先で踊っているため、その気味の悪さは一見してすぐに伝わり、近所の人はみな、彼のことは無視するようにしている。関わってはいけない人とされているのだ。実際近所との交流も見受けられないし、特別危害を加えたりすることはなく、ひたすら無言で踊っているため半ば放置されているというわけである。

 彼はその家には一人で暮らしているという。見た目はもう五十を超え、やせ細った身体をしている。聞くところによると、彼は十数年前までは普通のサラリーマンであり、近所付き合いもあったということだが、精神疾患を患ってからは奇行が目立つようになった。それで親身にしていた人たちも愛想を尽かして、誰も関わる者はいなくなったというのである。


 ある日、そんな彼を見かけなくなった。Eさんが出勤するときには毎日のように垣根の向こうでバタバタとしているのを見かけていたのに、おとといからぱったりと姿さえも見なくなったのである。奇怪な人物ではあるがもはや日常風景と化していたために、少しだけ心配してしまう。病気でもしたのだろうか? しかし、それを確かめに家を訪ねられるほど親しくはなかった。

 彼が姿を見せなくなって一週間が経とうとしていた。一時期は彼に対する噂が近所でも流れていたが、もうそんな時期も過ぎ去っていた。もう誰も興味を持たなくなったのである。

 翌日、Eさんがいつものように出勤しようと歩いていると、彼の家の前にはパトカーと救急車が並び、野次馬の人だかりができている。ああ、とうとう……Eさんは覗く気にはなれなかったため、そのまま彼の家を通り過ぎた。


 後日、近所に住む人から世間話のついでに彼の死を聞くことになった。突然死だという。外傷や家を荒らされた形跡がないため、他殺の可能性はないということであり、布団のなかでうずくまるように亡くなっていたという。遺体はその腐乱の状況から死後二か月以上は経過しているとして見られている。身体の一部が白骨化して、見るも無惨であったらしい。

 しかし、それを聞いたEさんはおかしい点に気付いた。Eさんは一週間前には確かに彼の踊る姿を見ている。いつもの生気のない表情で意味不明な踊りをひたすら踊り続ける彼の姿を。

「あの、そのひとってつい一週間前まではいつも通りに踊っていましたよね?」

 たまらずEさんが訊くと、近所の人は答えた。

「いや、私が最後に見たのはちょうど二か月とかそれくらい前ですよ。毎日あの家の前は通ってますけど、ねえ」

 Eさんが見たあの踊る者は一体何だったのか、いまだに説明がつかないという。


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