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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第二十九夜 満員のプール

 水辺には幽霊が集まる習性があるという。河原や湖のほとり、海岸などの場所においてもそうだが、お風呂場やプールといった施設にもそれはあてはまるようだ。


 今から十三年前のことである。Hさんは高校生に入って水泳部に入部した。幼いころからスイミングスクールに通い、泳ぐことが好きだったHさんは中学校の大会では優勝するほどの実力だった。高校でも期待の新入生として注目されていたのである。

 夏休みのこと。Hさんはレジャー施設でアルバイトすることにした。というのも、そこには大きなプール施設が備わっていたためである。安全監視員としてプールで水難事故が起こらないように見張る仕事を任されたのだが、その従業員特典としてプールの利用料が割引になるという話を聞いて飛びついた。夏休みは学校のプールが利用できる時間帯が決まっているため、部外でも使用できる場所を確保できることはかなり嬉しかった。

 ウォータースライダーや流れるプールなどのアスレチックな遊具が並んでいるエリアは夕方の五時でしまってしまうが、トレーニング用の二十五メートルプールなどの屋内型温水プールは夜八時まで営業している。そのため、Hさんは非番の日には割引で入園し、思う存分泳ぐことができたのである。

 その日の夜、午後六時過ぎにHさんは練習をしにプールに行くと、その日だけなぜかお客さんが多く、いつもは閑散としている夕暮れ過ぎの温水プールにも、避けて動かないと肩がぶつかってしまうほどにぎわっている。

「こんなに混んでいるなんて珍しいなあ」

 しかし、こんな日もあるのだろうと、人混みをかき分けて二十五メートルプールに向かい、入水しようとした瞬間である。

 水はプール槽に入っていなかった。気が付くとあたりは真っ暗で窓から差し込む仄かな白い明かりだけが見える。あれだけにぎわっていた人は誰もいなかった。

 Hさんはゾッとして急いでプールサイドを駆け抜けた。着替えることも忘れ、水着のまま管理室に転がり込むと、締め作業をしていた社員に事情を説明した。

「ああ、今朝なぜだか屋内プールの水が汚れているんで急遽営業を中止したんだよ。この時期になるとたまになるんだよなあ。水質異常。まあ業者の点検は入っているから明日には再開できると思うよ」

「でも、さっき……呆けているのかもしれませんけど、さっきまであのプールにはたくさんの人がごった返していたんですよ」

 Hさんがそういうと、社員は急に真剣な顔をして

「ああ、君もか……」

 と、小さくため息をついた。しかし、それ以上多くは聞き出すことができなかった。

 奇しくも、ちょうどその日はお盆の真っ只中だったという。


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