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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第二十五夜 異世界に行く方法

 月刊フォボフィリアのコラムに寄せられた投書の中で、『異世界に行く方法』と題された書き込みがあった。編集のWさんとともにその方法を検証してみることになった。


 書き込みの内容はこうである。

 まず十階以上あるマンションに行き、ひとりでエレベーターに乗る。そして四階、二階、六階、二階、十階という順番で移動する間、ほかの誰かが乗ってしまうと失敗となる。そして誰も乗り込まないまま十階から五階に降りると、とある女性が乗ってくるので一言も会話せずに十階に上がる。すると、そこは異世界なのだという。

 Wさんは「有名な都市伝説だよ。YouTubeではカメラを持って検証した者もいるけど、結局は異世界になんて行けやしない」と笑った。

「じゃあ実際にやってみますか?」と私(安城)。

「いや、あの……やってもいいんですけど、ひとりはちょっと」

 この男、怖いのである。

 しかし、ネタにはなりそうな企画である。危険とされている都市伝説に体当たりで検証していけば面白い記事も書けそうだ。そんな気持ちで後日、嫌がるWさんを引き連れてこの『異世界に行く方法』とやらを検証することになった。


 都内某所の住宅地にあるとあるマンション。築二十年、年季の入った少し寂れた印象がある白い壁、ちょうど十階建てでエントランスにもオートロック機能はない。そのため住人でなくても内側にあるエレベーターが使用できる。良い条件で雰囲気のある場所を見つけることができた。

 時刻は深夜二時。雰囲気づくりもそうだが、この方法は途中までほかの誰かを乗せてはいけないため、人通りの少ない時間帯を狙う必要があった。Wさんは「こんな時間にカメラ持ってエレベーターなんて怪しすぎませんか?」と弱気な声で言っていたが、私たちのようなオカルト記者はもうすでに十分存在が不審者なので問題ない。

 私はマンションの一階部分の外に待機し、Wさんはハンディカメラを持ってエレベーターに入り、携帯電話で私と通話状態を保ちながら検証することにした。

「カメラ回ってますか?」

「大丈夫です……」

 Wさんの全然大丈夫そうじゃない声が帰ってくる。

「じゃあ、始めてください」

 電話の向こうで「四階……二階……六階……」とWさんの声が聞こえる。きっと順調に階を移動しているのだろう。その間、誰かが乗ってきてしまうことになれば最初からになってしまう。

「あ……!」

 急にWさんが声を上げた。

「どうかしましたか?」と問いかけるが、ごそごそと布がこすれる音がするばかりで応答はない。ああ、もしかしたらほかに住人がエレベーターに乗ってきてしまったのかもしれない。カメラを持っているWさんを見て、気味悪がられでもしたのだろう。

 しばらくしてWさんの声が戻った。

「あ、安城さん。聞こえますか?」

「聞こえますよ。誰か乗ってきちゃいましたか?」

「そうなんですよ。十階に行こうというときに九階で男の人が乗ってきちゃって。すっごい気まずくて……さっきその男の人、四階で降りて行ったので、今から僕一旦そっちに戻りますね」

「了解です」

 そういって一度電話を切った。

 私はマンションに入ってWさんが乗るエレベーターの前で到着するのを待っていたが、連絡があってからしばらくしてもエレベーターの表示ランプは四階で止まったままだった。遅い、何をしているんだろう。私はもう一度Wさんに電話を繋いだ。

「もしもし、Wさんまだですか?」

「え?」Wさんは拍子抜けしたような声をしている。「さっき安城さんにカメラ渡したじゃないですか」

 そんなはずは……!

「今どこにいるんですか?」

「一階のロビーですよ。そこで安城さんがものすごい怒った顔でカメラを奪うように持って行っちゃったから……あれ、そっちは今どこにいるんですか?」

「私も、いまロビーにいるんですけど……」

 ふたりは絶句した。こんな狭い空間ですれ違えるわけがなかった。

「え、それ……じゃ……こ……すれ……い……」

 Wさんの声がどんどんノイズにかき消されて聞こえなくなっていく。とうとう電話が途切れてしまった。

 すると、目の前でエレベーターが作動して一階まで下りてきた。何事もなかったかのように開いた扉の先に、Wさんは倒れていた。眠っているようである。

「Wさん! しっかり!」

 一二発ほどビンタをしてWさんを叩き起こすと、彼はとぼけたような顔で言った。

「あれ、ここどこ?」


 Wさんはあの夜、私とマンションに検証しに行ったところまでは覚えているものの、ひとりでエレベーターに乗ってからの記憶はまるで覚えていなかった。持っていたはずのカメラもどこかに失くしてしまったため、検証中のテープを確認することもできない。

 それとも、Wさんは本当に異世界に行ってしまったのだろうか。その世界の私にカメラを奪われ、記憶も消されてしまったというのだろうか。

 私が事の顛末を話しても、Wさんはにわかに信じがたいというような様子だったが、もう二度と異世界に行く方法は試したくないと震えていた。

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