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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第二十四夜 雨

 女子大生のHさんは学校の友人であるRさんの部屋に泊まりに行くことになった。Rさんの部屋というのは五畳一間の古いアパートにある。外観は既に築五十年は過ぎているであろうボロボロの木造で、風呂なしトイレ共用ではあったが家賃の面では立地に対してかなり良いために、お金のなかったRさんはここに即決したという。

「うわ、こんなところに住んでるの?」

 Hさんはあまりの古さに驚いた。

「そうだよ」

「大丈夫なの?」

「何が?」

「ほら、ちょっと……怖くない?」

 Rさんは笑って首を振った。

「そうかな。確かにボロッちいアパートだけどね。私、田舎のおばあちゃん家がこんな感じの古い家だったから逆に落ち着くよ。虫とかも全然平気だし、貧乏だからあんまり贅沢言ってられないよ」

 しかし、Hさんはひと目見たときから気味の悪さを感じていた。Rさんの部屋のほかにもちらほらとカーテンの隙間から光が漏れているも、建物全体がなにかに覆われているように空気が重かった。それは霊感のないHさんにも肌で感じられるほどだった。

 部屋に入ると、外観の古めかしさとは対照的に、ピンクを基調としたファンシーな雰囲気に飾られていた。床に敷き詰められたシーツの合間には年季の入った畳が見えるが、隠してしまえばなるほど案外気にならないものである。Hさんは少し安堵した。

 小さなテーブルに缶チューハイとお菓子を並べて夜遅くまで話し込む。学校の講義のこと、サークルのこと、恋のこと、バイト先のこと……ふたりの話題は尽きなかった。

「あ、お酒なくなっちゃった」

 テーブルには空になった缶が並んでいる。だいぶ飲んだな、とは思ったが話に花が咲いてしまったため、このまま寝てしまうのは惜しい。Hさんはもう少し飲みたい気分だった。

「私、買い出しに行ってこようか?」

「いいの?」

「コンビニすぐそこだから。同じのでいい?」

「うん、ありがとう」

「そのかわり、明日の三限の出席とっておいて! 彼氏とデートなんだよね~」

 そういいながらRさんは財布を持って部屋を出た。

 Hさんはひとり、部屋に残された。小さなテレビからはバラエティ番組の賑やかな音がしているはずなのに、妙な静かな感覚だった。すると、

 バラバラバラバラ。

 天井からトタンを小刻みに叩くような音がする。

 バラバラバラバラバラバラバラ。

 音の勢いは増していく。雨だ! Rさんは傘を持たずに出て行ってしまったが大丈夫だろうか? にしてもかなりの大雨だ。ここへ来るときには星がきれいに見えるくらい晴れていたはずなのに。Hさんは激しい雨音の中でRさんの帰りを待った。

 それから五分くらいした後に、Rさんは帰宅した。

「雨大丈夫だった?」

 そう訊くと、Rさんは首をかしげてこう言った。

「雨? ずっと晴れてたよ?」

「だって音が……」

 Hさんが気づいた時にはもうトタンを激しく叩くような雨音はきれいになくなっていた。さっきまでかき消されていたくらいだったのに、いまはテレビの音がクリアに聞こえる。確かにRさんの服は少しも濡れている気配がない。カーテンをめくって外を覗いてみたが窓には一滴も濡れている気配がなかった。

「だって、さっきまですごい音がしてたんだよ。トタン屋根が壊れちゃうんじゃないかってくらいの……」

 するとRさんは首をかしげてこう言った。

「うち、瓦葺きだよ。トタンなんてどこにもないはずだけど」


 そのアパートのある地区ではかつて戦時中に激しい空襲があり、焼夷弾による火災がかなりひどかったという。Hさんが聞いたのは焼夷弾の弾ける音だったのかもしれない。

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