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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第二十夜 赤い顔

 これからお伝えする四つの話は、Kさんという男性が体験したものである。


 Kさんの勤めている食品工場に、ひとりの派遣社員の男が入社した。彼はBさんという。狐目に丸眼鏡を掛けている中年だった。Kさんの部署に配属されることになって、作業内容を説明していると、Bさんは落ち着きがなく辺りをきょろきょろと見まわしている。

「どうかしましたか?」

 Kさんが問いかけると、Bさんはうんうんと頷きながら答えた。

「ここには霊道が通っているようですね。至る所に見えますよ。僕、霊感が強いのでわかるんです」

 霊道、というのは霊が集まりやすい空間のことだ。しかし、Kさんはこの会社に入社して五年目となるが、幽霊がいるなんて言う話は一度も聞いたことがないし、実際に見たこともない。

 一体何を言っているのか、おかしなひとだ。

 Kさんは適当に受け流し、説明を続けた。


 その日の午後、Kさんは休憩から戻ると、社屋にあるほとんど人の出入りがない第二書庫のドアの前でBさんが佇んでいるのを見かけた。普通、派遣社員にはまったくかかわりのない場所だ。鍵は掛かっているが書庫には過去の食品のサンプルデータや各種の重要書類が保管されているため、勝手に持ち出されてはかなわない。Kさんは注意をしようとBさんに近づくと、どこからか異臭がする。この辺りでは絶対にするはずのない、獣のような臭いだ。訝るKさんに、Bさんは背中を向けたまま叫んだ。

「来てはいけない!」

 Kさんは足を止めた。

「ゆっくり下がって。少しずつ、離れてください」

「何を言って……」

 Kさんが書庫の扉の小窓を覗き込むと、真っ赤に染まった男の顔が張り付いているのが見えた。

「あああ……!」

「大丈夫です。ゆっくりと下がって。ここから離れてください」

 恐れおののいたKさんは後ずさるように扉から離れた。そして赤い男がBさんの陰に隠れたところで一目散に逃げた。


 Kさんが作業場に戻ると、すぐにBさんも戻ってきた。

「すみません、ちょっと遅れてしまって」と、まるで何もなかったかのような口ぶりだ。しかし、Kさんは確実にこの世ならざる者の存在を確認してしまったのである。震える手を抑えながら必死に恐怖と戦っていると、Bさんがそっと呟いた。

「さっき見たものはすぐに忘れたほうがいいでしょう。あれは特に危ないですから」

 その日の夜、Kさんは運転中、トラックに追突されて左腕を骨折する大けがを負ったという。


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