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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第十九夜 カワモトさん

 Oさんの勤める会社ではカワモトさんという女性がいた。彼女は入社して三年目、購買部に配属されていて、社内で使用する備品や消耗品などはすべて彼女に依頼して発注してもらうことになっていた。

 倉庫管理部にいたOさんは発注された品物を検品して受け入れ、倉庫に格納する仕事柄、購買部とも密接に連絡を取り合っていた。それほど大きくない事務所だ。購買部も社員が三人しかおらず、電話を取るのはいつもカワモトさんが担当していた。

「購買部のカワモトです」

「お疲れ様です」

「お疲れ様です。今日の仕入れ伝票を作成したので、いまからそちらに伺いますね」

「はい、お願いします」

 倉庫管理部とは午前九時になると、購買部とこのやりとりをすることになっている。決まりではないが、カワモトさんから伝票の受け渡しの一報は欠かさずに入る。まだ若いのにアナウンサーのようにしっかりとした口調で、聞き取りやすく、また聞き心地もよく、たいした用もないのに彼女に電話を掛けるものもいるくらいだ。カワモトさんは密かな人気者だった。


 ある日もまた午前九時に購買部から内線電話が入った。

「購買部のカワモトです」

「お疲れ様です」

「……」

 カワモトさんの声はいつものはきはきとした様子がない。どんよりとした疲れているような重苦しい声だった。

「カワモトさん大丈夫?」

 異変を感じてOさんが訊ねる。しかし、電話越しのカワモトさんは何も言わない。サーっと細かいノイズ音が聞こえてくるだけである。

「カワモトさん?」

「いまそちらに」

 そこで電話は急に途絶えた。彼女らしくない。きっと体調でも悪いんだろう。そうまでしても出勤する彼女の意欲はどこかで報われてほしいものだ。

 しかし、十分もすれば倉庫管理部の事務所に伝票をもって現れるはずのカワモトさんの姿はない。二十分、三十分……それでもやってこない。Oさんは心配して購買部に連絡しようとした瞬間、

「すみません。遅れました」

 現れたのは購買部の男性社員だった。

「あれ? カワモトさんは?」

 Oさんがそう問いかけると、男性社員は伝票を渡しながら答えた。

「いやあ、今日は事務所にも来てないみたいなんですよ。家に電話しても繋がらなくて、いま部長が確認しているところです」

 来ていない? しかし、さっきの電話は確かにカワモトと名乗ったはず……。

 その日、カワモトさんは出勤することはなかった。


 翌日、社長の方から朝礼があり、購買部のカワモトさんが自室で亡くなっていることがわかったと報告された。死亡推定時刻はおとといの夜。もともと心臓に持病をもっていたこともあり、急性の病に倒れたという。

 Oさんはいまでも午前九時に購買部から電話がかかってくるとぞくっとするという。大抵は後を引き継いだ男性社員の声なんだけどね、大抵は……と苦い顔で笑った。


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