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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第十四夜 ダサい

 これは霊感を持つことでも知られる有名ファッションデザイナーのOさんが体験した話である。


 Oさんは来々月に迫ったファッションショーの制作会議に参加していた。それは自身のプロデュースするブランドの二十周年記念として、かなり大々的なイベントになる予定だった。しかし、なかなか思い通りには進まずに、特に成果もあげられないまま会議はお開きとなってしまった。時刻はすでに深夜零時を回っていたため、Oさんはひとまず日を改めることにして会議室を後にし、企画メンバーと別れた。

 夜道、タクシーがなかなか捕まらない。Oさんはしばらく歩くことにした。ヒールの音が重々しく音を鳴らす。まるで苛立ちの具現が闊歩しているようである。

 とある交差点に差し掛かったときである。信号待ちで横断歩道の手前にいると、向かいにひとりの男が佇んでいるのが見えた。

「ああ、この世のものじゃない」

 Oさんはすぐにピンときた。現世のものかそうでないかはすぐに見分けがつくという。しかし、そういったものが『見えてしまう』ひとにとっては、彷徨える死者にはなにも触れないことが一番である。もしこちらが見えていることに気付かれてしまうと、思念に憑りつかれ、いつまでも付きまとわれることになる。Oさんには過去にそれで失敗したことがあった。今回も無視することにした。

「ひどいシャツ……色味が全く考えられてないし、サイズ感も最低。デザインもなにあれ。いくら死んでるからって言ってもダサいにもほどがあるわよ」

 たとえ相手が幽霊だろうがファッションを評価してしまうのは職業病だろう。向かいの男のコーディネートを見ては、そのあまりのひどさにイライラを募らせる。

 信号が青に変わった。Oさんが踏み出すのと同時に男もゆっくりと足を出す。

 Oさんの心象は最悪だった。ただでさえ煮え切らない会議を終えたばかりで、疲労もたまっている。そこにファッションセンスのない男が目に入る。道路の真ん中ですれ違う瞬間、つい口走ってしまった。

「ダサすぎ」

Oさんはしまったと思い、おそるおそる振り返ってみると、男は驚いたように口を開けてOさんの顔を見つめていた。そして三秒ほどの沈黙ののち、男はゆっくりと闇夜に溶けるように消えていったという。


「いまでもあの幽霊には悪いことしたなって思うわ。まさか死んでまで服装を評価されるなんてって思うでしょ? あの呆然とした顔が忘れられない。でも、どうか次はいい服着てきてほしいわね」

 Oさんはそう笑った。


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