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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第十一夜 四時四十四分の夢

 Tさんは夢を見ていた。それは満員電車に乗っていて、ギュウギュウに押し込められ窮屈な思いをしているのである。

 毎朝通勤に使っている電車である。生々しい映像ではあるが、不思議とすぐにそれが夢であることは察知できた。

「夢でも満員電車に乗るなんて狂ってるなあ」

 そんなことを思いながら車両の中から流れる景色を眺めていると、真ん前に座っていた老婆が顔を上げた。Tさんはそれに気づき顔を見合わせるとぎょっとした。その老婆の顔は半分何かに削り取られたように欠損し、残った右の眼球は虚ろにTさんを見つめているのである。

「うわあああ」

 Tさんは悲鳴を上げると、一刻も早くその場を離れたかったが後ろにも左右にもひとが密着して動くことができない。夢ならば覚めてしまえばいい。そう思って念じてみても何も変わらなかった。

 老婆はそのずたずたになった舌をひたひたと動かして、何かを伝えようとしている。しかし、Tさんはそれどころではない。

 Tさんは周囲に助けを求めたが、だれひとり振り向く者はおらず、死んだように暗い顔をして俯いている。

「こ、こ、こ……」

 老婆のうめき声が次第にはっきりと言葉を成して聞こえてくる。

「ころして……」


 Tさんはようやく夢から解放された。あたりは真っ暗である。心臓の張り裂けそうなほどの鼓動を感じながら時計を見遣ると、時刻は四時四十四分を指していた。Tさんは何か不吉なものを感じ、布団にくるまって震えていたが、次第に睡魔に迎えられて寝入ってしまった。


 Tさんが再び目覚めると時刻はもう九時を過ぎていた。会社からの電話の着信音が鳴り響いていた。遅刻した! 変な夢をみたせいだ! Tさんは電話を取った。

「すみません、寝坊しました。いますぐ向かいますので、本当にすみません」

「寝坊!? じゃあ、電車には乗ってなかったんだな? ああ、よかった。生きてたんだな。今日は無理しなくていいから、事が落ち着いたら出勤しなさい」

 なんのことだ? てっきり叱りつけられると覚悟していたTさんは上司の言うことがよく理解できなかったが、なんとか遅刻の失敗は不問とされたらしい。

ひとまずテレビをつけて寝間着を着替えようとした途端、映ったワイドショーは恐ろしい事件を報道していた。

「今朝発生した○○線の脱線事故の続報をお伝えします。現在も救助隊による必死の救助活動の最中ですが、今現在の死傷者は少なくとも二百人を超えているということです」

 その線はTさんが毎朝通勤に利用している電車だった。該当の事故車両もTさんがいつも乗り込む時間のものだということがわかった。

 夢のことを思いだす。あの老婆はいまもあの車両の中でもがき苦しんでいるのだろうか? Tさんはしばらく電車に乗ることが出来なくなったという。

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