第百夜 終告写真 その二
連絡のとれたYさんに取材を申し込んだ私は、後日ご自宅まで伺うことにした。
Yさんは現在七十四歳。写真が撮られたときは当時三十二歳ということになる。いまはかねてからの趣味だった囲碁の教室を開いている。
Yさんは優しく私を迎えてくれると、例の写真を見てこう言った。
「これが編集部に残っていたのかい?」
「ええ、取材資料を漁っていた時に、写真束の中からその一枚だけ見つかったんです」
そう伝えると、Yさんは不思議そうに頭を抱えた。
「実を言うとね、これはもうないはずなんだ」
「どういうことですか?」
Yさんはおもむろに書斎の棚を探ると、一冊のアルバムを取り出した。過去に収めた写真がたくさんあるなかで、とある一枚の写真を見せてくれた。
「ここに九人写っているだろう? これが僕だから全部で十人だ。ここにいる十人で撮ったのがいま君が持ってきた写真なんだ」
「……でも、写っているのは」
「消えたんだよ」
Yさんは色のない声で静かに呟いた。
「この十人は『フォボフィリア』の創刊に携わった人たちでね。この居酒屋の写真は創刊日にみんなで記念に撮ったものなんだ。そう記念だった。先輩たちが退職しても僕はこの時のことを忘れたくなくていつもデスクの上に飾ってた。でも、ある日、突然先輩の一人の姿が写真から消えたんだ。こんなバカなことがあるとかと思ったが、やはり不吉なものを感じてすぐにその先輩に連絡を取ったが、もう遅かった。どうやらその日、先輩は不慮の事故で亡くなったらしい。十人が九人になって、僕はなんだか急に恐ろしくなって写真を飾るのをやめて戸棚の奥底にしまった。それからずっとその写真のことを忘れていたんだがね、ある日、僕が一番お世話になった上司が病院で亡くなったと聞いて、その通夜でふとあの写真の話をみんなにしてみたんだ。そうしてもう一度写真を見てみると、やはり、上司の姿は跡形もなく消えていた。他のひとの持っている写真もそうだった。死んだ者はそこから消えていく。オカルト雑誌なんかやってるとそういうおかしなものがよく集まってくるだろう? だから、なにか、どこかで呪われたんじゃないかって。確かに事故で死んだ人もいたが、天寿を全うした人もいたから結局のところどうなんだろうな。でも実際、こうしてひとり、またひとりと仲間が消えていくのを見ていくのはつらかった。次は自分じゃないかと不安になって仕方なかった。だから僕は写真を捨てたんだよ。びりびりに破いて。でも、そうか、そっちに渡っていたんだな。あと、残っているのは僕だけか……」
Yさんは寂しそうに笑った。
「僕の寿命ももうすぐだろう。この写真を飾っておきなさい。そして、僕が死ぬとき、きっとこの写真が伝えてくれるだろうから」
その言葉通りに、編集部ではYさんだけが写ったあの写真を飾っておくことにした。
そしてその年の暮れに突然Yさんの姿が見えなくなった。連絡すると、やはりYさんはさきほど亡くなられたという。後には誰も写っていない居酒屋の風景が残っているだけだった。




