馬が産まれた
頭の中で設定がうるさかったので鎮める為に書く事にした
1本で終わろうと思ったけどもうちょっと書きたい部分がある
でも多分次までしか書かないはず
ネーミングセンスは死んでいる
「突然だが君は死んだんだ」
目の前に浮かぶ人の形をした輪郭がそう言ってきた
「は・・・はぁ・・・」
「なんだ、もっと驚くかと思ったんだが」
「いや、まあ・・・驚いてますけど・・・目の前の状況にもっと驚いてるし死んだ感覚がないので」
今いる場所は白い部屋だ
広いようで狭いような、奥行きが良くわからない不思議な場所、そんな所で目が覚めて目の前に変なものがいたら急に死んだと言われてもそこまで驚く事ができなかった
「で、行っちゃう?異世界」
「大分軽い感じですね、なんでですか?それに貴方は・・・?」
「ああ、俺?神様だよ、で、どうする?行っちゃう?異世界」
「えーっと・・・神様が間違えて俺を殺しちゃったから異世界に行かせる、とかそんな話ですか?」
「いや?君の死因と俺は何の関係もない、ただ他の異世界の神がこっちに人を送りたがっててね、それの交換として1人送るって話になって、別に強制じゃないから君じゃあなくてもいいんだ、で、行っちゃう?異世界、今ならおまけに願い事1つ叶えちゃうよ?」
「あー・・・えーっと・・・じゃあ行きます、どうせ死んじゃってる訳ですし」
「よーしよし、そうこなくっちゃ!!君なかなか物分かりがいいね!」
「ええ・・・目の前のよくわからない存在に対してそんなに喧嘩売るとか怒鳴り散らすとか怖くてできませんし」
「はっはっは!そうかそうか、で願い事、どうする?やっぱチート的な能力?」
「えーっと・・・そうですね・・・」
「うんうん」
「俺が元居た世界で生きていたという事を全て無くしてほしい」
「え?そっち系なの?」
「あと俺の親がこれから幸せに生きていけるように力添えしてほしい」
「いやいや、願い事は一つだけだよ?聞いてた?」
「その2つの事を必ず約束すると神の名の元に誓う、と言ってください」
「・・・君・・・それ今考えたの・・・?」
「いや、何かと異世界転生系が流行ってたんでこう言ったらどうなるのかなー、ってちょっと思いついてたんですよね」
「はー・・・なんというか・・・まあ、君の為の事じゃあないから・・・特別だ、君が生きていたという事実を無くし、君の両親の幸せに力添えをする事を俺の名に誓って果たす事を約束する」
「あ、ありがとうございます!」
俺は輪郭に向かって頭を下げた
「まあ、そうだな・・・君自身の望みとか、そういうの本当にないの?」
「えー・・・っと・・・これから行く異世界ってどんな感じの所なんですか?」
「ん?そうだな、文明的にはこの世界からしたら遅れているよ、所謂剣と魔法とモンスターの世界だ、多分君が思っている通りの中途半端に発展しているようなしていないような歪な世界だ」
「でしたら多分お酒美味しくないんだろうな・・・しかも転生って事は子供からやり直しだし・・・神様!今時間ありますか!?」
「ん?あるぞ、なんだ?」
「こっちの世界の最後のお酒!付き合ってください!!」
「はははっ!!まさか人間にそんな事をお願いされるとは思わなかったな、折角のチート能力が貰えるかもしれないってのにそんな事でいいのか?」
「いやー・・・チート能力があっても生かせるかどうかわからないですから、それよりも神様と一緒に酒を飲んだなんて多分やった事ある人いないでしょう?それの方がいいですね、今後何年酒飲めるかわからないですし」
「そんなものか、じゃああっちの神様も呼んで2柱と1人で飲むとするか」
「あ、はい!」
「酒も特別に美味いもん飲ませてやる、何が好きだ?ワインか?日本酒か?」
「あ、ビールと日本酒が好きです」
「よしよし、つまみも美味いもんだしてやるからな、じゃあこっちだ付いてこい」
俺はぷかぷかと浮かびあがった輪郭の後を付いていく
突然目の前に現れたかのようなドアを開けるとそこにはまるで俺がそう言うのを知っていたかのようにテーブルの上に豪華な食事が用意されていた
「おー!美味しそうですね!!」
「そうだろそうだろ、ま、君の好きそうなものを用意したからな、味はもちろん、神の保証済みだ」
「期待してます!!」
「で、こっちのこいつが君がこれから行くところの神だよ」
料理にばかり目が行っていたので気付かなかった
いや、仮に料理がなくてもこれは気づかなかっただろう、よく見ると料理の奥に白いもやが人の形を作っていた
料理の湯気で重なって紛らわしい事この上ない
「どうも、君がこっちに来てくれる人間か、よろしく頼むよ」
「あ、はい、よろしくお願いします、神様」
「よし、とりあえず挨拶は済んだしまずは乾杯だ、乾杯、グラス持って、はいカンパーイ!」
どうやら元居た世界の神様は酒が好きなようだ
飲み会が始まってからがぶがぶと酒を飲んでいる、流石は神様、飲み方が半端じゃない
もう一柱の神様はとても温厚に見える、こっちの神様が豪快すぎてそう見えるだけなのかもしれないが
そんな飲み会の中で色々な話をした
昔の話、技術の話、これから行く異世界の話
これから行く世界は10歳を迎えて初めての満月の日に卵を貰えるらしい
それはその世界では誰もが貰えるらしいが中身は様々なようだ
産まれてくる動物は「魂獣」と呼ばれているようだ
剣と魔法とモンスターのある世界、戦闘用の魂獣もいれば畜産用の魂獣もいるらしい
だが畜産用がハズレかと言われればそうでもないみたいだ
例えば羊だったらそこらへんにいる羊よりも柔らかく温かい羊毛が取れたり、牛だったら美味しい牛乳が出来る
流石に魂獣を肉食にはできないので普通の動物はそこらへんにゴロゴロいるようだ
「その魂獣ってのは餌どうするんです?10歳で貰えるとしたら子だくさんの家は大変ですね」
「いや、魂獣に餌は必要はない、食べなくても死んだりはしない、ただ魂獣の所有者が死ぬと死ぬ、それに所有者がぞんざいに扱ったりしているとどんどん弱って行き最終的には死んでいく」
「なるほど・・・その魂獣ってずっと存在しているんですか?卵が孵化してからずっとそばにいたら邪魔じゃありません?」
「魂獣は所有者の身体の中に住む、ずっと出っ放しではない、呼べば出てくるし帰そうと思ったら所有者の身体に帰っていく、傷を負った時もだ、魂獣は例え首を斬られたとしても死なない、所有者の身体の中に戻り傷を癒す、怪我の具合によって治る時間は違ってくる」
「なるほど」
「君はどんな魂獣がいい?これはサービスだからどんな魂獣でもいい」
「えーっとどんな種類がいるんでしたっけ?」
「私の世界で戦闘用として人気なのは竜種、または幻獣種だな、だがこれは王族や貴族が多い、平民に多いのはもっぱら畜産用だ、羊や牛、羊を追わせる為の犬、キノコを探させるための豚なんてのもいる」
「竜に幻獣か・・・」
「あと鍛えられた魂獣には色と属性がつく事がある」
「色と属性」
「ああ、簡単に君の世界の言葉で言えば色はレベル、属性は・・・まあ、言葉通りだ、例えば赤火のと付けばそれなりに成長した魂獣で火の魔法が上手い、魂獣に属性がつくと所有者もその力を使い魔法がはるかに上達する」
「魔法を上達させる方法はそれしかないんですか?」
「いや、もちろん本人が努力すればがっていくだろう、ただし人によって限度はある、魂獣に色と属性がつくのだって絶対ではない、そこに辿り着けるには幸運か努力が、あるいはそのどちらもがなければたどり着けないだろう」
「なるほど」
「君はどんな魂獣を選ぶ?」
「えっと、馬がいいですね、聞いた話だと普通の動物よりもハイスペックな動物になるみたいだから馬が魂獣になったらきっとどんな所でだって一緒に行ける!」
「なるほど・・・馬か、ではあとは君が好きな武器はなんだ?」
「え?武器ですか?」
「ああ、魂獣には武装化という能力もある、これは魂獣と所有者が共に成長しなければならない力だ、その形は人によってさまざまだが、君には選ばせてあげよう」
「えーっと・・・武器・・・武器・・・そちらの世界ってモンスターいるみたいですけどダンジョンってあるんですか?」
「ああ、ある」
「ダンジョンがあるなら・・・片手剣でお願いします」
「ふむ、片手剣か」
「本当はでっかい斧とか大剣って呼ばれるのが好きなんですけど狭い所じゃあ振り回せ無さそうなんで、片手剣で」
「わかった、じゃあ盾もあったほうがいいだろう」
「ありがとうございます」
「おう、そろそろ説明終わったか?まだまだ酒も料理もいっぱいあるんだ、細かい話は置いといて食って飲んでまた食え!」
「ああ、聞きたい事は大体聞けた、では食事に戻るとしよう」
「はい!」
「おう!そうこなくっちゃな!」
2柱と1人の飲み会が終わったのはいつだったろうか
俺は気が付くと空から降ってくる卵を眺めていた
「あー・・・思い出した・・・俺転生してきたんだった・・・」
神様に頼んで卵が降ってくる所で記憶が戻るようにしてもらっていた
若干大人びた、それでいて素直で親孝行な息子にしてくださいと頼んだのも思い出した
だが10年も前なのに昨日の事のような事で二日酔いのような痛みと気持ち悪さも襲ってきた
「ランスロット、どうした、満月から卵が降ってきただろう?」
「あ、はい、お父さん、見てください」
ランスロットは俺の名前、だが別に騎士の家系って訳ではない、親は立派な農民だ
俺も毎日畑で働いている、だが俺は次男なのでもう少し大きくなったらこの家を出て行って世界を回るつもりだ
この馬の魂獣に乗って
名前はもうついている、俺がランスロットって名前がついているのでアロンダイトだ
きっと駿馬になるだろう
「ほう、大きさ的に言うと・・・草食の魂獣だな、産まれてくるのは半年後くらいだ、楽しみだな」
「はい、とっても楽しみです」
「よしよし、じゃあ家の中にはいれ、満月の日の夜12時にどうしても外で卵を待ちたいって気持ちはわかるが今日は寒い、風邪をひいてしまうよ」
「はーい」
俺は家の中へと戻り上等とは言えないがとても暖かい布団にくるまり、卵に抱き着きながら眠っていった
そして夜が明けると俺が住んでいる町はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた
もちろん同じくらいに誕生日を迎えた子供たちが卵をもらったからというのもあるのだが・・・
「おう!ランスロット!見ろよ、俺の卵のでかさを!!」
この町で一番でかい商店「エバール商店」の一人息子イバールに降ってきた卵が相当な大きさだったらしい
竜種なのは確定、というくらいの大きさだったようだ
「おい、ランスロット!見たか、イバール様の卵の大きさを!」
「お前はどうなんだ、ランスロット、卵見せてみろよ」
「よう、イバールにザッコンにミーソカスの3馬鹿トリオじゃないか!」
「やかましい!その呼び方をやめろと何度言ったらわかるんだ!へっへっへ、ランスロット、見ろよ俺の魂獣の卵のでかさをよ、このでかさだと竜種なのは確定らしい、竜種の魂獣を持つと学院の特別コースに招集されるのはお前も知ってるだろ?将来俺は貴族になるんだ!」
「ああ、そうだな、おめでとう、イバール、エバールさんも喜んでくれたんだろう?」
「ああ!父ちゃんすっげぇ喜んでくれてさ!俺も嬉しくて!あっ!お父様の話は今はいいだろうが!」
こいつはこんな感じで結構親思いのいい奴だから嫌いにはなれないでいた
「俺の魂獣の卵はこれだよ、大きさ的には草食のなにかだろうってさ」
「はっはっは!!農民にはお似合いだな!!これでお前の両親も畑仕事が楽になるって喜んでいるだろうさ!!」
「あー・・・んー・・・まあ、そうだなぁ・・・」
俺は家から出て行きたいのでそう言われると少し親不孝をしている気持ちなってしまう
「所でザッコンとミーソカスはどんな卵なんだ?」
「俺達か?俺達も草食獣くらいの大きさだよ」
「ああ、でも多分学院には行くぞ、俺の親なんか学院に行け行けうるさくてさ」
「まあ、二人の親はエバール商会の人間だもんな、金はあるだろうし普通科なら行けるか」
「そうそう、イバール様もなんだかんだでエバール様に頼んでくれたみたいだしな」
「はぁ!?そんな事してねーし!?なにいってんだ!?はぁ!?」
うーむ、やはりこいつは嫌いになれそうにない奴だ
「おい、ランスロット、お前は学校行かないんだろう?」
「ん、ああ、行かないよ、ただの農民の家で行ってる奴なんかそうはいないだろ」
「休みの時は帰ってくるからよ!そしたら遊んでやるよ!!」
「あはは、そうだな、その日が楽しみだな」
「おう!竜に乗って帰ってくるからよ!」
「ああ、約束だ、イバール、ザッコン、ミーソカスの3馬鹿トリオ、その時は一緒に遊ぼう!」
「「「その名前で呼ぶんじゃねぇ!!」」」
「あはははは!!」
それから半年が過ぎ卵が孵化する日を迎える
俺としては産まれてくるのが馬だとわかっているのでそこまでソワソワしていない筈だったのだがやはり心待ちにしていたらしい
たまに畑仕事中にも仕事が手についていないと怒られたりしていた
その時は兄さんたちもそうだったから、と父親が母親を窘めてくれていた
「そういえばエバール商会の所のイバール君の卵孵化したらしいわね、竜種のワイバーンですって、竜種の中でも1番レベルが低いとはいえ大体がそこから始めているんですものね、成長が楽しみね」
「うん、そうみたい、この前見せてきたよ、ザッコンが象でミーソカスが牛だってさ」
「あらあら、あの仲良し3人組はもう全員孵化したのね、なら貴方が仕事に身が入らないのも確かに仕方がないかもね、そろそろ産まれるんだから」
「あはは、仕事は頑張るよ、母さん」
「そうね、でも産まれそうになったら手を休めていいんからね、これから一生のパートナーになる魂獣の誕生を仕事しながら迎えるなんて可哀想だわ」
「うん、ありがとう、母さ・・・あ!」
その時自分の中に閉まっていた魂獣の卵が呼んでもいないのに身体の外に出てきた
「産まれる・・・産まれるよ!とーさーん!にーさーん!!」
父親と2人の兄が駆けつけてきた時にはもう卵にはヒビが入り今にも産まれそうになっていた
「そろそろだと思う」
そして所有者である自分にはそのタイミングがなんとなくわかっていた
卵全体にヒビが入り中から強烈な光が辺りを包んだ
「うわっ!!」
その場にいた俺の家族だけなく近くにいた人もその強烈な光に目を閉じていた
そして産まれてきた俺の一生涯のパートナー、魂獣は・・・
「これは・・・スレイプニール・・・幻獣種・・・神の軍馬・・・」
「しかも色と属性まで・・・黒火のスレイプニールなんて初めて見たわ・・・」
確かに馬だった、俺がこちらの世界の神様に願った馬だった
だが・・・どうせなら足の数も指定しておくべきだったようだ