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第一話:プロローグ的な何か

初投稿な作品です。

気軽に気楽にさらさらっと読んで頂ければ幸いです。

 

 鬱蒼と生い茂る木々。

 所々で木漏れ日が差し、そのわずかな恩恵にあずかろうと下草が競うように伸びている。

 どこからか小鳥のさえずりが聞こえ、時折吹き抜ける柔らかな風が枝葉をさらさらと揺らしていく。

 辺りには子供の嬌声とそれをたしなめる大人の声が響いていた。


 穏やかな気候の下、緑香る中で身体を動かす作業は心地いい。

 どこかピクニックのようではあるけれど、これがそんなお気楽なものではなくて、もっと世知辛い何かである事を僕は始めから知っている。


 目を皿にして、下草が生えている辺りに探りをいれていく。

 しかし目当てのものは中々見つからない。


「しろちゃーん、これみて! すごいでしょ!」


 顔をあげると、そこにはつぎはぎの目につく服を着た小柄な女の子がまだ土の付いた草を手に抱え、満面の笑みで立っていた。


「へえ、ずいぶん立派な薬草。すごいね」


 頭を撫でつつ褒めてあげると女の子は嬉しそうにはにかんだ。


「後ね……僕は一応男だからさ、『ちゃん』じゃなくて『くん』で呼んでもらえると嬉しいかな」


「うん、わかったしろちゃん!」


 女の子は元気よく返事すると、こにらに手を振りつつ、自分の持ち場へ駆けていった。


 ……何一つわかっていないことが解った。

 思わず脱力してしまったが、ため息をつきながら気を取り直して再び作業に戻った。



 僕たちは今、薬草を採取しに街から少し離れた場所にある森へと来ていた。

 メンバーは孤児院の子供たちとそれを引率する大人数名、合わせて20人弱くらい。僕はそれにご一緒させてもらっている形だ。

 多分、子供枠として。


 僕たちがいる辺りは森の外周部。人里近く浅い部分とはいえ、それなりに危険はある。


 魔物が出るのだ。


 魔物――、それは普通の野生動物に比べて強靭な体を持ち、その性格は極めて獰猛なものが多い。

 しかしここくらいの場所ならばそこまで強力なものは現れず、子供から目を離さないようにしておけばそこまでの危険はない、らしい。

 可能性としては「もしも」があるかもしれないが、そんなことを気にしていたらこの世界では何もできない。

 だから、何も起こらないことを信じせっせと日々の糧を得るために身体を動かすしかない。

 それに常時金欠気味な孤児院にとっては薬草採取が貴重な現金収入源らしく、普段手のかかる子供たちもある程度の労働力として期待できるのでやらない訳にはいかなかった。



 額の汗をぬぐいつつ、一旦作業を止めて自分の成果を確認してみる。

 貸し出された籠の中には小ぶりな薬草が二つだけ……。

 正直に言ってしょぼい。しょぼすぎる。


 そもそも数がそこまで生えていないことに加えて、他の草と見分けがつけづらいといった言い訳はあるけれど、まだ舌足らずな幼女に仕事の成果が劣っているのはあまりに不甲斐ないと自分でも思う。

 今日の晩ご飯、加えて自身の心の安寧のためにも頑張らなくては。



 それは自分に喝を入れ作業を再開しょうとした時のことだった。


「ゴブリン! ゴブリンが出たよ!」


 その叫び声とともに、周囲を警戒していた少女が急いでこちらに駆けてきた。


 周囲がにわかに慌ただしくなる。叫声をあげ、不安を露わにしている子供たち。

 それを年長の子たちがなだめつつ一ヶ所に集めていく。


「ほら、お前も中にはいってろ!」


「あ……うん」


 体格のいい少年に手を引かれ自分も子供たちの中に加えられる。

 なんだか納得のいかない気分になりつつも、今は大人しく従うことにする。


 この集団を引率していた院長先生は子供の数を確認し終えたのか、少し安心した表情を見せた後、戦えそうな者に指示を出し、子供たちをぐるりと囲むように配置させた。

 各々の手には鉈。

 どうやらこのまま迎え撃つ構えらしい。


 皆注意深く茂みの向こうを見つめている。

 そして、奴らは現れた。



「ギャッギャッ!」


「グギャア!」


 緑色の肌に子供くらいの背丈。

 腰蓑だけを身につけ、大きな鼻に牙が剥き出しの口は醜悪に歪んでいる。

 その姿は正にゲームなどでお馴染みのゴブリンそのものだった。


 数は全部で三匹。

 うち一匹は粗雑な棍棒で武装している。

 どうやら手頃そうな獲物がたくさんいることに興奮している模様。

 気分の高揚が抑えきれないのか、棍棒の奴はバンバンと地面を叩きこちらを威嚇してくる始末だ。

 奴らには数の不利とか、そういった致命的な状況すら全く頭にはないらしい。

 まあ、見るからにおバカそうな面構えはしているけれども。


 とはいえ、奴らが子供たちにとって十分な脅威であることに変わりはなく、こちらも迂闊に動き出せない。


 しかしそんな膠着を打ち破るものが現れた。



「おぅるぁあああ!!」


 勇敢にも単身で男がゴブリンの群れに切り込んでいく。

 たるんだ腹、黒髪のボサボサ頭に襟がダルダルのTシャツ。

 やたら生活感あふれるスエットにサンダルをつっかけたその姿は見紛うことなく現代日本における、ただのおっさんだった。

 そこにファンタジーな要素は欠片もない。

 しかし、その手に握られた剣だけはひどく暴力的で目を離せない威圧感があった。


「ギャッ!?」


 おっさんの腰のひけた一撃を戸惑いの表情で受ける棍棒ゴブリン。

 その一撃は軽くとも、何やら得体の知れない迫力に少し気圧されてしまったらしい。


「おれの猛攻を止めたかったら性別変えて人化して出直すんだなぁ! そうしたらたっぷりと可愛がってやんよぅ!!」


 欲望に塗れたおっさんの顔がかなり下衆い。

 その圧倒的煩悩から生み出される迫力にゴブリンたちも恐怖しているようにすら見える。

 もしかすると野生の感とやらで、貞操の危機を感じ取ったのかもしれない。

 他の二匹も手を出すことも出来ずにただあわあわしている。


 やばい。

 なんでもアリか、このおっさん。

 事案が発生した。

 異世界のおっさんによって、ゴブリンの心が凌辱されている。

 しかしこの世界に通報で駆けつける警察様は存在しない……。

(っつーー逃げて、ゴブリンさんたち早く逃げて!)



 そして――そんなこともあってか、どうなのか、戦いは終始おっさん優位に進められていく。

 まず棍棒を持った一匹が倒れ、そこに子供たちによる投石という援護射撃が加わることによって戦闘はすぐに終息を迎えた。


 血生臭い匂いとともに地面にはゴブリン三匹の骸。

 その近くに満足そうな顔をしたおっさんが佇んでいる。

「無事、大人としての責務を全うすることができた」とか、そんなことを考えているのかもしれない。

 状況だけみれば、おっさん一人がいいとこ取りした形といえなくもない。


 しかしそんな状況に「待った」をかける者達がいた。


「おらー!」

 一人の幼女がおっさんに向けて一石を投じたのだ。


「え? ちょ!?」


 突然の仕打ちに困惑するおっさん。しかし、示し合わせたように、投石の輪はキッズ達の間に広まった。


「しね、おーく!」


「つちにかえれー!」


「きめーんだよ!」


 子供たちによる投石の雨あられにおつさんは戸惑いを隠せずにいられない。


「こらこら、ロリショタども、おふざけも大概にしないとお兄さーーいてぇ!? 待って、今容赦ない一撃がおれの腹に突き刺さったんだけど!? ゴブリン殺しの英雄にこの仕打ちはなくない!?」


 腹をさすりつつ涙目のおっさん。

 マジで痛そう。

 とはいえ、子供たちの危機感を煽ったこの人が悪い。

 これに懲りて少しは自分の行動を反省して欲しい。


 そんな事を考えながら事態を静観していると、不意におっさんと目が合ってしまった。


「ちょっ、そこの男の娘! 見てないで助けーーいたっ!? おぅふ、い、い……イエスロリータチョータッチ!?」


 どんな痛がり方だよ。

 というか、この人完全にアウトだわ。

 ……よし、殺ろう。

 僕は静かに落ちている石を拾い、握り締めた。そしてーー、


「やー!」

 力の限りおっさんへ石を投げつけたのだった。


 その後おっさんへのお仕置きはしばらく続いた。

 院長先生もすぐに止めないあたり、少なからずキモいと思っていたに違いない。


 なんだかよく分からないことになっているけれど、どうしてこうなったのか自分でも分からない。

 なぜこんな場所でこんなことをするはめになってしまったのか……。



 ことの始まり、それは数日ほど前の事だった。









今回は前書きで短めです。次回からが本編となります。続きも追々載っけていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

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