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麻雀JKクラブ!!  作者: ファル
序章
3/78

第二話 ~この牌、大丈夫ですか?~

「ツモ! 満貫まんがんだ!!」


 場に黄泉の通った声と、牌を卓に叩きつける音が凛と響く。

 麻雀開始から既に五十分が経過し、場は南四局。逆転を賭ける恭介の親は、軽快な黄泉のツモによって阻まれていた。


「うは! まだ四順目っすよ!!」

「甘いな恭介。順目など関係ない。麻雀とは、相対的なものだからな」


 ドヤ顔の黄泉に比べ、巡はあたふたするばかりだった。目の前で繰り広げられている事象に対し、何が何だかわからなかったからである。


「よし! これでこの半荘は私のトップだ! さっさと次へ行くぞ!!」


 かろうじて第一回戦が終了したことだけ理解した巡は、流されるままに両手で牌をかき混ぜていた。



「ツモ。悪いな、跳満はねまんだ」

「くっ、私が引き負けたというのか?」


 続く第二回戦。接戦をモノにしたのは孝明だった。トップである黄泉のリーチに対し、果敢におっかけリーチを敢行。そして見事に引き上がったのである。


「それにしても容赦ないっすねぇ。巡ちゃんが親の時に、ツモあがるなんて……」

「確かに申し訳ないがな。これ以上、黄泉を走らせるわけにもいかんだろう」

「覚えてろ! 次は必ず私が勝つ!!」


 熱くなりながら牌をかき混ぜる黄泉に対し、巡は焦りを覚えていた。


(夜、眠っちゃったおかげで、何とか寝ずにはすんでるけど……)


 現在の時刻は二時半。このまま続けていれば、寝不足どころか、始業式に間に合わないという恐れすら出てくるのである。


「す、すみません。私、今日学校あるんで……」

「心配するな。学校なら、私も行かなければならん」


(そ、それって、余計にダメなんじゃ……)


 黄泉の発言は、全く励ましになっていなかった。取り付く島もないとは正にこのことで、このままでは徹夜の恐れも出てくる。


 黄泉も学校に行くのであれば、さすがに始業式には間に合うように、切り上げてはくれるのだろうが、巡にとってのタイムリミットは刻一刻と迫っていた。


「おい、黄泉。この娘の手前、これ以上続けるのはまずくないか?」


 さすがにまずいと思ったのか、孝明が助け船を出してくれた。


「フン、何を甘いことを……」


 黄泉は言いながら、何やら考えている様子だ。巡は一瞬、ここで止めてくれるのかと期待したが、黄泉が発した言葉は彼女の期待を裏切るものであった。


「ならばこうしよう。お前が一度でも、私達より先に上がることが出来たら、この場はお開きにしてやる」

「いやぁ、それはちょっときついんじゃ……」


 恭介がぼやくように呟く。巡にはよくわかってはいなかったが、三人と巡の実力差は相当なものだ。しかもツモあがりしか許されて(教わって)いない巡の不利は、火を見るより明らかだった。


「どんな形にせよ、勝負は勝負。勝者だけが、自分の言い分を通すことが出来る、そういうものだろう」

「え、えーと……。一度でいいから、あがれば、いいんですね?」


 納得したというわけではなかったが、この場から抜け出すにはそれしかないようだ。ひとまず巡は、ここまで得た情報を頭の中でまとめてみる。


(い、一応、ゲームの流れはわかってきたけど。出来る……かなぁ)


「恭介、孝明。言っておくが、ワザとあがらせようなんてことはするなよ。そんなことをすれば、一日中でも打ち続けさせるからな」

「わかっている。そもそもお前の『目』を逃れて小細工など、出来ようはずもないからな」


 黄泉の念押しに、孝明はやれやれという感じで頷く。出来れば彼は、巡をこの場から解放してやりたかったのだが、言い出した黄泉が聞かないということを、よく理解していたのだ。


(ルールは、まだ全然わからないけど、一つだけわかったことがある。要するに、あがれるのは、最初の一人だけなんだ……)


 巡はその時、父親である傑との、以前のやり取りを思い出していた。


     ★


「いいか、巡。勝負事とは、必ず誰かが勝ち、誰が負ける。ルールが何であれ、この点が変わることはない」

「でも、結局強い人が勝つんでしょ?」


 巡の念押しを否定するように、傑は首を横へと振る。彼自身、それが全くの間違いと思ってはいなかったが、ある条件下においては、一概にそうとも言えないためだ。


「結果として、勝った者は強い。だが、強い者が必ず勝つとは限らない。特に、運の要素が絡む戦いならば、弱い者が勝つということは、決して不可能ではないんだ」

「じゃあ、父さん。弱い人が勝つには、どうすればいいの?」


 巡の質問に、傑はうーんと唸り声をあげた。答えは既に決まっていたのだが、うまく伝える自信がなかった。


「何度も勝負していれば、一度くらいは、勝つチャンスが巡ってくる。要は、その機会を逃さないことだ」

「機会……って?」

「『流れ』とも言うな。集中力さえ持続していれば、勝負の流れを感じることが出来るはずだ。勝てると思ったらとことん行け。逆に、負けると思ったら、あっさり引け」


 この発言は、彼の実体験からくるものだった。そして最も重要なことを、巡へと伝える。


「覚えておくんだ巡。大事なのは、勝負所を『見極めること』だ」


     ★


「……わかりました。それで大丈夫です」


 目を開いた巡は、一人覚悟を決めていた。点数で勝てというわけでなく、一度アガればよいということなら、自分にもチャンスはある……そう思ったのだ。


(大体、何もしなくても、このままじゃ帰れそうもないし……)


 ぶっちゃけ、巡の本心はそこだった。どうせどうにもならないなら、一縷の望みに賭けるしかなかった。


「よし! では次の半荘に行くぞ!!」


 黄泉の掛け声と共に、巡の命運を賭けた一戦が始まった。



「ロン! ザンクだ!!」


 場は南三局。巡の捨て牌に対し、黄泉は容赦なくアガリを宣言した。


「うへぇ。黄泉さん、ほんと初心者にも、容赦ないっすねぇ。巡ちゃん。無理しなくても、この半荘が終わったら、ちゃんと帰らせて……」

「うるさい。恭介、お前は黙っていろ!」

「ちょ、何すか、一体……」


 黄泉の言葉を受けながら、孝明は場の状況を確認していた。そうして彼は、場にある違和感を覚えていた。


(この手牌に、この捨て牌……この娘の捨て牌から察するに、間違いなくテンパイしている)


 残念ながら、孝明の手はアガリに向かえる状況ではなかった。恐らくそれは恭介も同じなのだろう。つまり、巡のアガリを阻止するには、『黄泉がアガる』しかなかったのだ。


(対して、黄泉の手は三色崩れ。普段なら、もう少し手を伸ばしにかかるはずだ。この娘のアガリを止めるために、仕方なく倒したというのか……?)


 黄泉のイラ立ちの要因はそこだったのだろう。点数的には巡にアガられようが、黄泉的に大した痛手はない。だが、一度アガればよいという条件下において、阻止せざるを得なかったのだろう。


「次でオーラスだ! 次、あがれなかったら、続行だからな!」

「……はい」


 現在の時刻は午前四時。既に絶望的な時刻ではあったものの、今なら帰って仮眠くらいは取れる時間である。しかしもう一回戦となれば、ほぼ徹夜確定となる。


 巡は眠気でボケ始めた頭をフル回転させて、現在の状況把握に努めていた。


(今回、黄泉さんがアガったけど、今までと比べて点数は落ちてる。逆に私はここ数回、もう一息であがれるところまで来てる)


 孝明ほど正確に状況を掴んでいるわけではなかったが、巡なりに違和感は感じていたようだ。つまり巡は、『今がチャンス』であることを、漠然と感じていたのである。


(なら、勝負するのは次戦……!)


【巡の配牌】

一一四七八九④⑤1237北発



「ダメっす。全然手が進まねぇっす」


 恭介は嘆きながら、不要牌を場に捨てた。孝明も声には出さなかったが、とてもアガリに向かえる牌姿ではない。孝明は瞬時に現在の得点状況を確認した。


(現在の点数は、トップが黄泉の58,000点、2位が俺の36,000点、恭介が30,000点で、この娘は箱割れの-24,000点。点差で言えば絶望的だが、流れとしては……)


「ポン!」


 孝明が捨てた中に対し、黄泉がポンを宣言した。孝明は横目で確認すると、黄泉の狙いを考える。


(中をポン……か。黄泉も今の状況に気づいているようだな。俺達に流れがない以上、今最も流れがあるのは……)


「この牌……大丈夫ですか?」


 巡が確認しながら切った牌は『発』だった。打ち出された牌を確認した黄泉は、すかさず宣言する。


「そいつは……ポンだ!」

「発ポン!? 黄泉さん。まさかの大三元っすか!?」


(違う。黄泉は真っ直ぐアガリに向かっているだけだ。本来なら今鳴いた発はアガリを取るべき牌。捨てる側からすれば、決して捨ててはならない牌なのだが……)


 麻雀を打つ者なら、危険と知りつつ勝負に行かなければいけない場面は把握している。この場合、考えられることは一つ。自分がアガるために、発を切るしかなかったのだろう。


(初心者だから、待ちがわからないということはあるだろうが……間違いなく、勝負に出ている)


 巡はゆっくりと深呼吸をした。現在の状況はよくわからないが、自分と黄泉のどちらかが一つのアガリを目指して争っている。

 巡はここが『勝負所』だと、本能的に悟ったのである。


(今、一番流れを持っているのは、私だ。なら……前に進むしかない!)


 意を決した巡は、持っていた不要牌を強く叩きつけた。やがて見えた牌の姿に、その場にいた全員が息を飲む。


「うわ! そ、その牌は……」


 恭介は思わず両手で顔を覆っていた。現在の黄泉に対して最も危険な牌――それが『白』だったのである。


(白を切った! 対して、黄泉は……?)

「その牌は……通しだ」


 黄泉は顔色こそ変えなかったが、捨てた牌に、巡の意思を感じた気がしていた。


【現在の黄泉の手牌】

二三④⑤⑥白白  中中中発発発



(こいつ、大三元という役は知らないだろうが、明らかに危ないことを認知した上で、牌を切っている。まさか……)


 そんな中、巡が自分のツモ牌をめくる。手元に牌を寄せた巡は、一応皆に確認を取った。


「これ……倒しても、いいんですよね?」


【巡の最終手】

一一四四七八九④⑤⑥123四



「おぉ! 巡ちゃん、やったっすね!!」


 歓声をあげる恭介に対し、孝明は素早く手役を確認していた。


「役はない。単にツモあがりのみ……」

「よかったです。私、朝弱くて……だから、早く帰って寝ないと……」


 巡は心底ホッとした様子だった。大きく息をつくと、ゆっくりと椅子から立ち上がる。孝明はこのアガリが、どういう手順で作られたものか、考えていた。


(形だけ見れば、単にアガリを取っただけ。だが、黄泉がアガるために必要な牌を、手の中で使い切っている。これは、偶然なのか……?)


「……仕方ない。約束は約束だ。ちゃんと家まで送り届けてやる。恭介に孝明。悪いがここ、片付けておいてくれ」


 黄泉は席を立つと、玄関に向かって歩いていった。その後を巡が慌てて追いかける。

 結果としてその場には、恭介と孝明の二人だけが残される形となった。


「珍しいこともあるっすね。黄泉さんに頼みごとされるなんて……」

「ふっ、胸中穏やかじゃないんじゃないか?」


 孝明はもう一度、残された牌を眺めていた。勝負に絶対はないと言うが、明らかな「勝つ意思」の元に作られた巡の手牌だった。


「うーん、俺にはよくわからないっすけど」

「お前は、考えて打つタイプではないからな。わからなくても無理はないだろう。今回も、適当に打ってるように見えて、『一度も振り込んでいない』わけだし」


「俺はいつも、適当に打ってるだけっすよ! ただ、なんとなく、『わかっちゃう』だけっす!」


 平然とした恭介の発言に、孝明はため息をつくしかなかった。理論派の孝明とは対極に位置するものの、恭介の打牌も、驚異には違いなかったからである。


「俺のように、理論で打つ者にとって見れば、お前みたいなタイプが、一番怖いものさ」


 孝明の言葉をよく理解していないのか、恭介は、思い出したように口笛を鳴らした。


「それにしても巡ちゃん、すごかったっすね!」

「ああ。この面子相手に、初心者同然の状態で、一度とはいえ、アガりを取るとはな……」


 黄泉は何も言わなかったが、今日この場で打ったメンバーは、プロとて容易に勝てるメンツではない。

 特に黄泉に関して言えば、名のある麻雀プロを震え上がらせるほどの実力を有しているのである。


「けど残念っすよ。『あの人』と打てると思って、わざわざ遠くから来たのに」

「元々黄泉が、無理矢理作ったような場だからな。気が乗らなかったんだろう」


 本来この場には、巡の父である『傑』が参加すると聞いていた。そのため恭介と孝明の二人は彼と打てることを楽しみにしていたのだが、肩透かしを受けた気分だった。


(あるいは、意図的にあの子が来るように仕組んだ……か?)


『あの』傑のことだ。今回のことも何らかの意図があって仕組んだのかもしれない。そう思うと、孝明は楽しみで笑いがこみ上げてきた。


「どうしたっすか? 笑ってるっすよ」

「いや、これで黄泉がどう動くかと思うと、楽しみで、な」

「言えてるっす! 黄泉さんの性格からして、絶対このまま黙ってるわけないっすよ!!」


 黄泉の負けず嫌いに関しては、相当なものがある。仮に『まぐれ』だったとしても、勝利条件を打ち出した以上、今日の黄泉は巡に『敗北』したことになるのだ。


「楽しみに待つとするか。何が起こるか……をな」


 窓から朝日が差し始める頃、恭介と孝明の二人は、共に笑みを浮かべていたのだった。

プチ麻雀講座

・対局の進行について

 麻雀は東一局~南四局まで、計八回対局が行われるよ! これを『半荘戦』と言って、最終的に一番得点を有している人が勝ちになるんだ。



・親について

 一番最初に牌を取り始める人が「親」という扱いになり、アガリ点が1.5倍になるよ! そのため、自分が親の時は、最も重要な場面なんだ。ちなみに自分が親の時に他の人にツモあがりされると、他の人の倍の得点を払う必要があるんだ!



・ツモあがりとロンあがり

 アガリの形の一歩手前の(あと一つでアガリになる)時を『テンパイ』と言うよ! この状態なら、自分が必要牌を引いてこなくても、他の人の捨て牌からアガリを宣言できるんだ! これをロンあがりと言い、対象者から得点を直取り出来るよ。

 逆に最後の一つを自分で引くとツモあがりになり、全員から均等に点数を奪うことが出来るんだ。



・ポンについて

 自分が二つ持っている牌を誰かが捨てた時「ポン」を宣言して、対象牌をもらうことが出来るよ。ただ、ポンした後に「アガる」ためには、手に役がある状態じゃないとダメなんだ。「ポン」をするのは、役が何かを知ってからにしようね!



・リーチについて

 自分が「ポン」とかしていない&後一枚でアガれる状態の時、リーチを宣言することで、役を一つつけられるよ! リーチ後はアガリ牌以外は切らなきゃいけない(手牌を変えられない)デメリットはあるものの、得点を上げるチャンスが多くなるんだ。始めたての人は、まずリーチしてアガることを目指すといいよ!

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