悩んでるウザかわギャル後輩にアイスの当たり棒を渡したら次の日から構ってきた。
エピローグというか、二人の縁が繋がるきっかけの話です。
「はぁ………あっつい、でもやっぱり夏といえばアイス、アイスといえばシャリシャリ君だよな」
先程コンビニで購入した『シャリシャリ君』というソーダ味の棒アイスを袋から取り出す。四角で水色に彩られた形を見ながらそう呟いた俺、高宮蓮太郎はしゃくりとアイスに噛り付いた。くぅ………! そうそう、これだよこれ。安心する味だ。うまい。
高校二度目の夏はこれまでと変わらず………いや、去年よりも暑く感じる。テレビのコメンテーターがクーラーに慣れたから暑く感じるって言ってたけど、まぁそれは別にどうでも良いか。うん、アイスうま。
ここのコンビニは高校からは近いが俺が住んでるアパートと比べると遠い。アイスを買って帰っても溶けてしまうのでこうしてコンビニの日陰である窓ガラスの近くで立ち食いしている訳だ。
「………ん?」
「はぁ~~~、あ~つ~い~ぃ~………」
アイスを食べながら道路を通る車の数を数えていると、オレが通う高校の夏服を着崩した女子生徒がふらふらとしながらコンビニに入った。
………見るからにギャルだったな。金髪ロングで肌は小麦色だし、凄くパーリーなピーポーっていう感じだ。でもどこかで見たような顔してるんだよな。人の顔を覚えるのは苦手だから自信はないけど、誰だっけ?
おっ、当たり棒じゃん、ラッキー。
窓越しから茹だったギャルの姿を見てると、どうやらそのギャルはアイスを求めにコンビニにやって来たらしい。
財布を取り出す為だろう、サブバックを開けるとその中に手を突っ込みながらごそごそしてると一瞬固まった。すると次にはギャルは必死な顔になってバックの中を確かめるが、どうやら目的の物はないらしい。
だが小銭入れはあったようで安心したように中を確かめるが、死んだような顔になって肩を落とした。
目を輝かせた途端にシュンとなったり随分分かりやすいな。………ハァ、仕方ない。
「どうしよ、財布失くした………アイス買えないじゃん」
俺は再度コンビニに入店すると、しょんぼりとしながらも諦めきれなさそうに様々なアイスを見ているギャルに声を掛けた。
「………なぁ」
「ッ………! え、なにアンタ………?」
「これ、あげる」
訝しげに俺を見ていたギャルだったが、さっき当たったアイスの当たり棒を差し出すと戸惑いながらも受け取った。
………うわ、ネイルしてるのか爪ピッカピカじゃん。こんなに暑いのに腰にカーディガン巻いてるし腕にも色とりどりのシュシュを何個も付けてる。女子ってこんな夏場でもファッションとか気にしないといけないから大変だなぁ。
それはともかく、現在目をパチパチとしているギャルへの用事は済んだ。だいぶ涼めたし、アパートに帰るか。
「じゃ、俺はこれで」
「え………あ………!」
何かを言いたげな表情をしてたが、俺はそれに構わず帰った。………食べながら帰った方が良かったと気が付いたのは汗だくになって家についてから。
「これシャリシャリ君の当たり棒じゃん………! あの人、もしかして私が困ってるの見て助けてくれたのかな………? ナニソレ、超やさしーじゃん!!」
◇◆◇
「あつい、あつい、あつい………」
次の日、俺は暑さで死にそうになりながらも自分が通う高校を目指して歩いていた。誰だ、夏でも朝は日中に比べると比較的涼しいって言ったのは。
あっ死んだ俺のばあちゃんだった………。
自転車があれば良かったんだが、つい最近何故か自転車のサドルだけ盗まれた。すぐに物品購入サイト『アムズン』で注文したが、残念ながらアパートに届くのは五日後らしい。ったく、一体盗んだの誰だよ。俺の尻汗がたっぷり染み込んだサドルなんて需要無いだろ。
まぁオレが徒歩なのはそれが理由で、登校で結構疲れてしまうのは仕方がない。届くまでの辛抱だ。
よし、ようやく俺の通う私立高校の校門が見える位置まで来た。相変わらず校舎でかいな。噂によると超お金持ちのお嬢様がこの高校に通っているからこの高校に多額の出資金が支払われたとの事で現在も校舎を改築中だとか。
でも、全然お嬢さまっぽい生徒なんて見掛けた時ないんだよな。まぁただ単に俺が人の顔を見ても忘れっぽいからなんだろうけど。
………ん、誰か校門前に立ってるな。うわっ。
遠目からでも分かる派手な金髪、両手首に付けてる可愛らしいシュシュ、健康的な小麦色の肌。肩にはじゃらじゃらとたくさんのぬいぐるみやキーホルダーを付けたサブバックを掛けたその女子はスマホをしてた。
見るからに昨日コンビニにいたギャルじゃん。あっ、顔あげてこっち見た。すっごい手ぇ振ってる。ギャルの知り合いが後ろにいるのかという可能性もあったので後ろを振り向いているが、誰もいない。
やっぱりこれ俺に手を振ってるヤツだ。うわめっちゃニコニコしてるし視線も完全に俺をロックオンしてる。
逃げたい。
「やっほ~! やっぱりウチと同じ制服じゃん! てか学校に来るの遅くない?」
「高校から家が遠いですから」
このギャルの学年は分からないけど思わず敬語になってしまった。というかやっぱり見た目通りのギャルだなコイツ。昨日は気にならなかったけどアホ毛もある。
ホームルーム十五分前だし歩きながら話そう。
「そーなんだ! ところでアンタ何年生なの?」
「………二年生ですけど」
「じゃあウチの先輩じゃん! でかなんでけーご? ウチ一年だからそんなけーご使わなくてイイよ!」
「………はぁ、わかった。あとさっきからずっと思ってたけど、馴れ馴れしくないか? 多分昨日会ったばっかりだろ?」
あと距離も近くない? 肩と肩がくっつきそうなくらい近いしなんかこのギャル良い匂いするんだけど。それとそう言うなら後輩であるキミはなんで敬語使わないの? まぁどっちでも良いけどさ。
「えへへ、先輩昨日コンビニで当たり棒くれたじゃないですかぁ? 同じガッコーだとしても無視すれば良かったのに、なんでそんなことしたのかなーってウチは気になるワケですよ」
「それでわざわざ校門前で待ってたってのか? 見た目の割には礼儀正しいんだな」
「えっへっへ、清楚系ギャルのコミュ力と探求心を舐めなんな? セ・ン・パ・イ♡」
清楚系とか自分で言うのか。あと小悪魔みたいなニヤニヤした笑みを浮かべながらこっち見んな。………ちくしょうカワイイな。
「で、なんでせっかく当たった当たり棒をくれたんですかー? 教えて下さいよー!」
「なんでって………はぁ、お前が困ってたからに決まってんだろうが」
「………………え、それだけ?」
「あのとき財布が無かったんだろ? 偶然見てた先であんな落ち込んだ顔してたら無視出来ないだろ」
したらしたで後味悪いしな。アイスを買う金を渡すっていう手もあったけど、それじゃ素直に受け取って貰えないだろうし。………ん、なんか周りの生徒こっち見てひそひそしてない? 俺が周囲を見渡すとやっぱり見てる。
もしかしてこのギャルが騒がしいからか? だとしたらごめん、俺は悪くないけど代わりに謝っておくよ。
「………先輩って、もしかしてウチのこと知らない感じ?」
「? 知る訳ないだろ、ただの清楚系ギャルじゃないのか?」
「ふーん、ほーん………やっぱり善意で話しかけたんだー。………面白っ」
若干俯き気味で急に小声になってるし、なにそのうんうんと頷いてる反応。さっき話したばっかりだけど元気さはどこに行った。あと逆に表情がやかましいぞ。
あれ、なんかアホ毛が凄いびゅんびゅん揺れ動いてる。
オレがその動きに気を取られていると、隣にいるこのギャルは言葉を続けた。
「やっぱりウチが思ったとーり、先輩って超やさしーですねっ!!」
「………はぁ、さいですか」
俺はただ偶然当たったアイスの当たり棒を渡しただけなんだけどな。それだけで優しいって事になるのか………。まぁ受け取り方は人次第だよな。
「ウチ、逢沢涼華っていいますっ! 先輩は?」
「高宮蓮太郎だ」
「れんたろー先輩ですねっ! 昨日はありがとうございました! ………うわっ!? じゃ、時間もアレなんでウチは先に行きます! それじゃーまた!!」
「あ、あぁ………」
逢沢はそう言うと腰に巻いた紺色のカーディガンを靡かせながら走り去ってしまった。こんな暑いというのに夏服といえども制服で走れるのは思わず感心してしまう。
しかし昨日の事があったとはいえ、こんな目立たず冴えない男子に話しかけるなんてコミュ力が振り切ってるわ。うん、さすがパーリーでピーポーなギャル後輩、逢沢だ。
まぁ今後関わる事はないだろう。学年が違うし、何よりこんな特徴が無い俺に関わるほどギャルな後輩もヒマじゃないだろうしな。
………あれ、さっき"また"って言ってなかったか?
………………………。き、気のせいだよな。うん、社交辞令だろ。
俺は無理矢理そう納得させて教室への歩みを早めた。
「にっしし、れんたろー先輩かぁ。うん、気に入っちゃったかも。これからどうイジろっかな………楽しみだなぁー」
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