小剣の鍛冶屋
工房に鉄を打つ音が響く。
それに纏わりつく様に今日もまた、あの音が聞こえてくる。
キンキンキン!
俺の作った小剣で、剣士の少女達がチャンバラごっこをしているのだ。
「打ち合わせるなと、何度言えば……」
溜息混じりに一人ごちる。
キンキンキン!
そんな俺を嘲る様に、再び軽い音が鳴る。
少女達はハンター。
ハンターは、魔物を狩って財を成す。
最近は、見た目重視、防御度外視の、鎧という名の衣装を纏い舞う様に闘うのが流行りらしい。
そんな彼女達の要望に応え、俺は小剣を作る。
軽量で、且つ切れ味が良い代わりに強度が極端に低いという、主要武器としては扱いづらいものになったが何故だか評判は良い。
カン、カン、カン――――。
色々思うところはあるが、これも仕事だと割り切り注文通り鎚を振るう。
刃を交える音が止み、暫くすると少女が工房に入ってきた。
「折れちゃった」
「ちゃった、じゃねぇよ……」
「てへへ……」
よくある事なので替えの刃は沢山用意してある。
刃の付け替えは数分で終わった。
きらびやかな柄の先に細身の刃が蘇る。
ハンターの少女達が持参する柄は名工の作った逸品で、実用性、芸術性、共に高い。
何でも、ファンが貢いでくれるのでいくらでも金を掛けられるのだそうな。
彼女達の主な収入源はハンターの仕事ではなく芸能活動だった。
狩りでの活躍を伝え聞き、時には観戦し、ファン達はその活動を金で支える。
狩猟系アイドル、今時の少女達に人気の酔狂な職業だ。
「おじさん、ありがとー!」
「おい! 刃の替えはあるけど……」
「分かってるってー!」
少女は金貨を一枚俺に投げ、工房の外に駆けていった。
キン、キン、キン!
また、音が聞こえてきた。
その直後、歓声が上がる。
人が集まってきているらしい。
ルックスを求められ、
危険な行為を求められ、
成果を求められる彼女達は、
肌を晒し、
身を躱し、
殺られる前に敵を討つ。
真剣での訓練は、そんな彼女達の生存戦略なのかもしれない。
代償が、たかが刃で済むなら安いものだ。
キンキン、キン――――。
死に物狂いの共演者が、また一つ命を落としたようだ。
少女が工房に戻ってきた。
「ゴメン、折っちゃった……」
「……いいさ、替えはあるんだ」
俺が打つ刃の命は軽い、それが奏でる音色の様に。