偽桃太郎
春の暖かい陽気に囲まれ、出発式が開かれた。村民の殆どが集まって彼の雄姿を祝い、酒や踊りで賑わっている。雪乃は、隙あれば彼に会おうとした。出発式は午前中に開かれたが、本当に出発するのは夜七時を回った、完全に日が落ちてからであった。出発式では言うまでもなく、彼は大人気者であったから、一言でも喋ることは出来なかった。雪乃は彼に直接応援を送る為に、出発の時に声を掛けた。
雪乃「会えて光栄ですわ。私、貴方のようなお方をずっと待っていたの。今まで鬼ヶ島へ行く勇気がある人なんて一人も居なかったから。頑張って頂戴ね。これ、きびだんご作ってきたの。こんな物口にしないかも知れないけど、結構美味しいのよ。お腹が空いたら是非召し上がって。」
偽桃太郎「ありがとう、これは大事に持っておきますよ。しかし貴方はどうしてまた、そこまで鬼退治に拘ってるんです?」
雪乃「それはちょっと色々ありまして…」
偽桃太郎「よければ途中まで一緒に付いて来ませんか?船の場所までお話を聞きたい。鬼に色々されたのでしょう。可哀想に。私がすぐにその恨み晴らしてあげますから。今は元気出しましょうよ。」
雪乃「なんて優しいお方…途中までなら私だって平気だわ。荷物持ちでも何でもやれる事ならやりたいんだもの。」
村長「御武運を祈っております。村の者、盛大なる拍手で送り出しましょう!」
集まっていた村民達は、一丸となって拍手で彼らを送り出した。
暗い夜道の茂みの中を颯爽と歩いて一時間が経った。波止場は遠く、体力が徐々に減っていって、雪乃にとっては大変な道のりだった。途中で野犬や野鳥、猿などが出てきても何もおかしく無い森の道を抜けると、ようやく海岸に辿り着いた。彼女はもう疲れ切っていた。
雪乃「こんな大変な道、生まれて初めてだわ。貴方は全く息が切れていないんですね。本当に凄いと思う。貴方なら、本当にやってくれるって信じています。」
偽桃太郎「本番はこれからですよ。こんな不吉な雰囲気の夜には良いことが起こりそうです。貴方と一緒にここまで来れて本当に嬉しかったです。これからどうしますか?今から貴方一人で引き返すのは危ないと思いますが…」
雪乃「私は大丈夫ですよ。一人でも村へは帰れると思います。でも、貴方がどうしても鬼退治を手伝って欲しいと言うなら、私に出来ることは何でもやりたいのです。」
偽桃太郎「貴方みたいな人に出会えて本当に良かった。一緒にこの船に乗りましょう。ここからは危険が付いて回りますが、鬼を退治する為です。気合いを入れて行きましょう。」
二人は船に順番に船に乗り込んだ。偽桃太郎の背中を見つめながら、本当は不安で一杯になっていた雪乃も、徐々に覚悟を決め始める。そろそろ鬼ヶ島が見えてきて、鬼との戦いが、現実のものとなったのを肌で感じた。
偽桃太郎「ここが鬼ヶ島です。意外と大きいですよね。ここから先は私が案内していきますので安心して下さい。」
彼に言われるがままに付いていった。洞窟の中を入って真っ直ぐ歩いた。怪しい雰囲気が漂っていて、蝙蝠が翼を広げて飛んでいるのも確認できた。すると、奥の方からお祭りのような音楽と、酒の匂いが漂ってきた。笑い声もしばしば聞こえてくる。雪乃は、偽桃太郎に緊張感が全く無いことに気がついた。これから鬼を退治する人の表情では無くなっていた。彼女はその場に立ち竦んだ。それ以上歩けなくなっていた。偽桃太郎は含み笑いをしながら彼女の腕をがっしり掴み、体ごと引きずった。
偽桃太郎「おーい!連れて来たぞ!」
彼は、悪魔のような微笑みで、彼女を見つめた。
お祭り騒ぎをしていた鬼達は、急に静かになり、全員の目が彼女を捉えた。
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