偽桃太郎
偽桃太郎がこの村に来て2日が経ち、彼を知らない者は誰1人いなくなった。鬼を倒せるかも知れないとの情報を聞いた者の中で一番喜んでいるだろう少女は、すぐに偽桃太郎に会いたがった。彼女曰く、鬼は無類の女好きらしく、女を見つけ次第に強姦し、その後は無作為に殺されるらしい。だからこそ鬼と戦うとなれば男が頼りになると彼女は信じていたのだ。彼女は決して口にはしないが、実のところ彼女の母親も、洗濯中に、鬼に見つかり強姦され、そのまま帰らぬ人となったらしい。丁度、彼女の誕生日と同じ日に入れ違いで母親を亡くしたので、ずっと村の養護施設に入っている。彼女が鬼退治に夢中なのはそのせいであった。友人の話によると、偽桃太郎は今日の午後にはこの村を出発すると聞いていた。彼女は、彼に会う為に村役場へ駆けて行った。
小雪「貴方が桃太郎さん?会えて本当に嬉しいです!本当に感激だわ...私、鬼が大嫌いなの。ちょっと色々ありまして。」
偽桃太郎「それはお気の毒ですね。でも、もうその恨みは晴らせるでしょう。貴方の為にも頑張ってきますよ。では、私はもう行きます。村長さん。」
既に七時を回っていた。この季節でも外はもう真っ暗で、とても鬼退治には不向きな時間帯であった。
村長「もう行かれるのですか...村民のみなさん、桃太郎殿が鬼退治へ出発します。この勇敢な方を、我々一同心から応援しましょう!!」
村民達は声高に叫んだ。人口が少ないこの村が、ここまでお祭り騒ぎになるのは何十年ぶりの事だった。
小雪「桃太郎さん。私、途中まで付いて行っていいかしら?荷物持ちでも何でも出来る事はやりたいの。ここで待ってるだけじゃあんまりだもの。ね、お願いしますわ。」
桃太郎「それは嬉しいです。貴方がそばに居てくれると私も心強い。ではさっそく行きましょうか。」
彼らは、村の人々に見送られながら暗い道を2人で歩いて行った。静まり返った茂みの中を抜け、途中で誰にも会うこともなく、波止場までやってきた。普通なら、野良犬や野鳥がのこのこと、そこら辺をうろついてるかも知れないが、ここでは最後まで2人きりだった。小雪の顔が少しずつ不安で満ちていった。目の前は海で広がっている。
偽桃太郎「この船で鬼ヶ島まで行くんです。不安そうな顔をしていますね。でも、ここまで来たら小雪さんも一緒行きませんか?」
小雪「私には怖くて、恐ろしくてこれ以上はとても行けませんわ。桃太郎さんには本当に畏れ入ります。私はもうここで帰らさせていただきますわ。」
彼女からしたらここで引き返すのは当然の事だったろう。
偽桃太郎「いや、ここで一人で引き返すのは危険です。途中で何があるか分からない。貴方は女性なんですよ。こんな暗い道を1人で歩かせる訳には行きません。一緒に行きましょう、鬼ヶ島へ。
小雪「そんな...」
小雪はこれ以上抵抗することが出来なかった。桃太郎の目を見てしまったからだ。このとても恐ろしい目に反抗してしまえばもっと恐ろしい事になるのではないかと。それに、桃太郎が私に付いてきてほしいと言っているのなら、鬼退治の手助けを求められているのなら、ここで断る理由も見つからなかった。
2人は静かに浮かんでいる小さな船に順番に乗り込んだ。鬼退治までは10分くらいで着くらしい。必死に漕いでいる桃太郎の背中を見つめながら、これから鬼に会いに行く事で不安でいっぱいになった。
偽桃太郎「鬼退治怖いんですか?あんなに村にいた時は張り切っていたのに。」
小雪「何で何でしょう…なんて言うのかしら…本当に貴方に付いていって鬼を退治出来るのかしら…それに、あんまり時間が掛かったら村の方達が心配するわ。」
偽桃太郎「大丈夫ですよ。あ、もう着きますよ。これが鬼ヶ島です。結構大きい島ですよね。ほら、もう降りて下さい。鬼の場所へ案内しますよ。」
小雪は偽桃太郎の妙な言い方に敢えて触れることはできなかった。砂浜を抜けて洞窟の中に入り、奥へ真っ直ぐ歩いて行くと、そこはお祭りのような音楽が激しく流れていて、笑い声と歌声で満ち溢れていた。小雪はすぐに失神してしまいそうだったが、何とか持ちこたえた。立ち竦んだが、偽桃太郎に強引に腕を引っ張られ、中に入っていった。
偽桃太郎「おーい!連れてきたぞー!」
彼の大きい声で鬼達の笑い声と歌声は一瞬にして消えた。鬼の目線はすぐ、小雪に集中した。
鬼「偽桃太郎、お疲れ様。今回も上手くいったみたいだなぁ。よし、そこのお嬢ちゃん、こっちに来な。」
小雪はもう頭が真っ白になった。喋ろうにも何も口から出てこない。目の前には鬼がいる。今分かった事は、この桃太郎と鬼は裏で繋がっていたという事だけだ。
小雪「偽桃太郎って...」
ようやく一言声を発した。その少女の声を聞いて、鬼達は一層盛り上がった。
鬼「いい声してんな!お嬢ちゃん。これは良い女に違いねえや。まず服を脱がそうや、おーい、みんな手伝ってくれ。」
鬼達はすぐに小雪の服を剥ぎ取った。一瞬にして裸になった小雪は悟った。ついに悟ったのだ。次は自分の番だと。幼いながらに大人びた身体は直ぐに熱くなり、妖しいものになった。必死に抵抗していた彼女はすぐに居なくなり、自ずと鬼達に身を捧げるようになっていった。これが彼女の運命だったのかも知れない。その数ヶ月後、お腹の中には新しい命が宿っていた。この命は、村の養護施設に引き取られた。どうやって村に戻って来れたのかは誰にも分からない。そして小雪は帰らぬ人となった。
おしまい