ハロー! 不幸せな人間たちよ!
少女は落ちていく、深い暗い絶望の中に。
目を閉じればぐるぐると楽しい記憶が蘇る。
絶望している彼女は何故楽しい記憶を思い出す、それは闇を抱えた心をすこしでも溶かそうと足掻いているからだ。
今彼女が置かれている状況から逃げようとしてるからだ。
だがそれも深い傷を付けられた記憶には中々勝てない。
楽しいことを思い出しても直ぐに辛いことを思い出してしまう。
つらいこの世界から逃げたい。つらい現実から逃げたい。
脱出ゲートを考えてみても、その計画は第三者から邪魔されてしまう。このまま私はどう生きていけばいいんだろう。
辛いのは一瞬だ、我慢すればなんとかなる。そんな言葉に惑わせられながら人はただただ辛い道をとぼとぼと歩いていく。
つらい、人の目が辛い、話すのが辛い、そもそも何考えてるか解らない自分以外の信用してないやつが怖い。
なんてことを彼女考えながら学校へと街を歩いて行く。
午前七時五十五分、明るい朝を暗い夜に変えてしまいそうな言葉ばかり呟く少女は、大人数の人混みの中でこう思った。
「神様がいるのなら、私に……いや力無き人にチャンスを。神様私がこうなるのが運命だというなら神様は私が困っている様子を見て楽しんでるのでしょう。なら貴方がもっと楽しめるもの見るために私に力を! 弱い人間が強い人間を倒す下克上を!」
そう願った時だった。
「ハロー!あーもしもし不幸な人間の皆様ー!こんにちは!」
甲高い声が周りの電子機器からピーピーと耳に入ってくる。
携帯電話、ビルのモニター、電光掲示板。
そこに映し出されるのはコスプレをした女の子、白い服と頭の輪っかそれは自分を天使だと言うかのよう。
「Nice to meet you. 私は天使だよ!外国語が多いのは海外ドラマをちょっくらみてるから!」
どうでもいい情報はさておき、頭のイカれた女が公共電波をジャックできたのだろうか。
少女の周りの人々は文句を言ったり、不思議がったり、ネットの掲示板を見て情報を見たり。
どうもただ事ではない、それだけは皆感じ取っていた。
「どうでもいい話はさておき、今日は不幸な君達を幸せにするべくあるプレゼントを持ってきたよ! さあみんな自分の手にご注目!」
自称天使がそう言うと、皆の手には銃が握らされていた。
「さぁ皆武器を手に取ったら、やることはただ一つ!」
その言葉にヒヤリとする。
こいつが言うのはまさか……!私が願ったせいでこうなったのか!?
私が心のなかで思った一言が世界中の皆を巻き込んでしまうのか!?
「さぁみんな殺し合いの始まりよ!」
やっぱり言いやがった。
殺し合い……? なんで!? 冗談よね!?
などと周りの人々はうろたえる。
「弱い人間、強い人間この世界には2つの性格の人間がいるわ。それらは必ずぶつかるわ……でもそのせいで苦しむのは見ていて不愉快よ、神様だって見ていて悲しいわ」
モニターの中の天使は悲しげな表情をしながらぶらぶらとステージを歩く。
そして急に画面に近づき笑顔でべらべらと喋り出す。
「でもね! いいこと思いついちゃったの! 嫌いな人間がいるなら消してしまえばいいと! もちろん人間の世界にはルールがあるわ……。だけどねそのルールちょっと破ってもらって自分の住みやすい世界にしてもいいってことに神様たちの世界ではなったのです!」
駄目だ狂っている。この世界は破綻する。
神様は世界を滅亡させたいのか。
先程まで暗い気持ちで人を恨んでいたがそんな気持ちはフッと何処かに消え去り、今ある気持ちは神様に対しての呆れた感情だ。
周りはパニックになって泣き出すやつもいるっていうのに、神様は人間を幸せに導いたり守ったりする人なんじゃないのか。
やっぱり運命とかいって、人の人生を決めてそれを面白おかしく天界で見て笑ったりしてるんじゃないか。
「ルールに縛られ自由にできなかった残念な人達にとっては嬉しい話ですよね! でも喜んでばかりはいられません、貴方が嫌いな人間を狙うように誰かが貴方を狙ってるかもしれません……」
「そう! これは全人類が敵のサバイバルゲーム! 皆さん楽しんで殺しあってください!」
大声で叫び、そこで中継は終了した。
周りは一瞬静かになる。だがしかし。
パァン! パァン!
静かな世界に2回銃声が響く。
それが引き金となり人々はまた騒ぎ出す。
闇雲に逃げ惑う人々。
その人達を避けながら私は嬉嬉として学校にかけていく。
ハァハァ息をきらせドキドキさせて、恋を知った乙女のようなにやけ顔を抑えながら、この異常な空間を走り去る。